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鵜呑みにしない・思い込みに気づく – アウトプットの質を高めるクリティカルシンキング

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ルバート代表の松上です。秋が深まってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。ここ数回は普段の業務の中で活用できるノウハウにフォーカスしてきました。前回はタスクの優先度付けについて書きましたが、今回はアウトプットの質を高める思考法として、クリティカルシンキングについて書いてみたいと思います。

本記事の執筆者
松上 純一郎マツガミ ジュンイチロウ
  • 株式会社Rubato代表取締役
  • 『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』
    『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』著者

皆さんはクリティカルシンキングと聞くとどのような印象を持つでしょうか。情報や意見を疑う考え方というイメージがあるかもしれません。ただ、単に「疑う」というアプローチだけでは、本当の意味でのクリティカルシンキングのメリットを活用できません。ぜひ今回の内容を通して、成果につながるクリティカルシンキングの考え方を習得していただければと思います。

 

1.よくあるクリティカルシンキングが不足しているパターン

クリティカルシンキングの中身について見る前に、まずはクリティカルシンキングが不足している人が陥りがちなパターンを2つ見ていきましょう。


①上司や顧客の情報を鵜呑みにしてしまう

上司の指示、顧客の発言などを、そのまま「正しい」と受け取ってしまうパターンです。例えば弊社のような研修会社の場合、顧客が「うちの社員は受け身だからワークショップのような研修にしてほしい」という要望に対して、その通りワークショップにしたところ、実は顧客の本当の要望はインプット中心だったというようなケースが挙げられます。

顧客が言いたかったのは、「受講生が受け身にならない工夫」をしてほしいということであって、ワークショップはあくまで一例でしかなかったのです。このように、上司や顧客のように権威のある人の言葉ほど、無意識に疑いなくその言葉を表面的に受け入れてしまうことがあります。結果として、相手にとって適切ではない判断を下してしまうことがあります。

②多数派の意見を正しいと思い込んでしまう

会議で多くの人がある意見に賛同すると、「みんなが言っているから間違いない」と感じてしまうパターンです。しかし、多数派であることと、論理的に正しいことは別問題です。同調圧力に引きずられて思考を止めてしまうのも、クリティカルシンキングの不足による典型的なパターンです。

上記のような状況を防ぐための思考として、クリティカルシンキングは活用できます。その内容を見ていきましょう。

2.クリティカルシンキングとは?

クリティカルシンキングはよく「批判的思考」と訳されます。その名称から他者の意見を疑いの目を持ってみるとか、批判的に聞くなど、ややネガティブな印象で捉えられがちです。しかし、クリティカルシンキングは、情報や自身・他者の解釈を様々な観点から吟味し、その妥当性を評価するという、思考や議論の質を向上させる思考法です。そういう意味では、非常に建設的な思考法と言えます。

Rubatoではこの思考を、コンサルティング会社のマッキンゼーが提唱する問題解決の手法である「空・雨・傘(事実・解釈・対策/主張)」の各プロセスにあてはめて考えることをおすすめしています。

「空・雨・傘」の思考法では、まず「空(事実)」で起きていることを正確に捉え、次に「雨(解釈)」でその意味や原因を考え、最後に「傘(対策)」として取るべき行動を決めます。思い込みや飛躍を防ぎ、筋の通った判断をするための思考プロセスです。

「空・雨・傘」の詳細については、「空雨傘で解決!会議がもっとスムーズになるファシリテーション術」のブログを参考にしてみてください。ではそれぞれのプロセスでのクリティカルシンキングのポイントを見ていきましょう。


①空:情報の正確性へのクリティカルシンキング

何かを議論する際には、その前提となっている情報(事実やデータ)の正確性が大変重要になります。間違った情報を元にして議論を続けても、正しい結論は得られないからです。

そこで重要な情報についてはクリティカルシンキングをフルに活用して「情報の質」を吟味することが大事になります。その際にポイントになるのが、「情報源」と「情報の内容」の二つの観点です。

◆情報源の吟味
   • 発信者にその情報に関する利害関係はないか
   • 一次情報か、伝聞か
   • 発信者に専門性はあるか
   • 1つの情報に対して複数の情報ソースがあるか
◆情報内容の検証
   • 定量情報の場合、サンプルの選定、サンプル数や統計手法が妥当か
   • 情報取得の時期は古くないか(情報の鮮度)

自身が情報を扱う場合は上記を確認すべきですし、他の人が情報を出してきた場合も同様です。上記のいずれかでもひっかかる情報は議論のベースとしての情報の質を疑ってみた方が良いと思います。

②雨:情報の解釈へのクリティカルシンキング

情報が正確だとしても、その解釈が誤っていては正しい判断ができません。情報の解釈について、二つの観点から確認することをおすすめしています。

◆前提が間違っていないか
前提が間違っていると情報の適切な解釈に影響してしまいます。例えば、自社が競合と比較して全般的に劣っているという前提を置いていると、他社より優れた特徴に関する情報を見逃したり、軽視してしまい、結果としてビジネスのチャンスを失ってしまう可能性があります。

◆バイアスに引っ張られていないか
解釈する人にある特定のバイアスがあると情報の解釈に影響します。例えば、ハロー効果(ある一つの特徴に引きずられて、それ以外の部分も高く、または低く評価してしまう心理現象)に弱い人の場合、複数の情報源にあたっていたとしても、より高学歴でプロフィールが充実している人の主張のみを妄信してしまう可能性があります。(この場合、高学歴であることが、本来無関係なその主張の信頼度に影響してしまっている)

③傘:情報の解釈をもとにした対策・主張へのクリティカルシンキング

対策や主張の段階では、次の3つを意識することが重要です。こちらはクリティカルシンキングというよりもロジカルシンキングに近い要素のように思います。

   • 都合の良い情報だけで主張を組み立てていないか
   • 論理の飛躍がないか
   • 論点がずれていないか

つまり、「なぜそう言えるのか?」という因果関係を確認して、論理の筋道を確かめることがポイントになります。

3.意図的な議論のテクニックへの対処

ここまで情報の正確性の確認、情報の解釈の検証、そして、それらを元にした主張の吟味という三つの観点からクリティカルシンキングを見てきました。これらに加えて意識すべき点は意図的な議論のテクニックへの対処です。

議論の場では、そのテーマへの当人の利害や思い入れから、意図的・無意識的に“ずるい論法”が使われることがあります。それらの論法に引っ張られると建設的な議論ができなくなる可能性があります。そこで、いくつか代表的なパターンを紹介します。

論法 内容 事例
藁人形論法(ストローマン) 相手の主張を歪めて攻撃 Aさんが「残業を減らす工夫が必要」と言ったのに、Bさんが「君は残業を全廃すべきと言うのか」と極端化して反論する。
人身攻撃(アド・ホミネム) 発言者を攻撃 提案内容ではなく、「君はまだ経験が浅いから、その意見は参考にならない」と人物面を批判する。
すり替え(レッドヘリング) 本題から別の話題に逸らす 「品質改善の方法」を議論していたのに、突然「そもそも予算が少ないのが問題だ」と論点をずらす。
論点ずらし(ゴールポスト移動) 基準を後出しで変更 改善案を実施した後に「いや、今回はスピードも重視していた」と新しい評価基準を持ち出す。
誤った二分法 選択肢を2つに限定 「この企画を進めるか、全くやめるかのどちらかだ」と中間や代替案を排除する。

このような論法は、相手を攻撃する意図がなくても、議論の流れを歪めてしまうことがあります。これらの論法を見抜く力を持って、非生産的な議論を避けるようにしましょう。

4.指摘を「失礼にしない」ための工夫

ここまで見てきたように、クリティカルシンキングは「批判思考」ではなく「建設的で本質的な議論をするための思考法」です。しかし、他者に対して情報の正確性や解釈を問う指摘をすると、相手は疑われたように感じて不快感を感じることがあります。そこで相手に不快感を与えずに論理のズレを指摘するために、伝え方の工夫を意識するようにしましょう。ここでは三つの伝え方の工夫をご紹介します。


①相手の言い分を受けとって補足する

「それは違う」とか「正確性に欠ける」と言っても、相手は素直に受け取ることはできません。そこで相手の言い分をまずは受け取ることを意識するようにしましょう。

例:「おっしゃる点、確かに重要ですね。それを踏まえて議論を更に深めるために、もう少し前提を整理してみても良いでしょうか。」

②「I」メッセージで伝える

次にポイントになるのが、「I」メッセージです。「自分はこのように感じる、思う」と言うと、あくまでも一意見を伝えていることになるので、相手は受け取りやすくなります。

例:「私の感覚では、この情報は○○の意味合いに感じました。」

③提案型にする

相手の情報や意見を「正す」ではなく、「一緒に整理する」という姿勢の方が、相手が受け止めやすく、建設的な議論の方向になります。

例:「〇〇という観点から見てみると、よりはっきりするかもしれません。」

5.まとめ

いかがだったでしたでしょうか。クリティカルシンキングとは、「相手を批判したり、疑う力」ではなく「事実や解釈を多面的に検証し、より良い課題解決へ導くための思考法」です。生成AIの活用が当たり前になってきた状況の中で、生成AIに聞けば情報収集から解釈まで全て自動でやってくれます。だからこそ情報の質を見抜き、改善する力が求められているのだと思います。

ぜひ伝え方を工夫しながら、より良い議論にするためのきっかけにしていただければと思います。そして何より、「自分自身の情報や主張が正しいのか?」と問い続けることがクリティカルシンキングの力を高める上で重要です。ぜひ自分自身を疑うクセや謙虚さを持って、日々の業務に取り組んでみてください。必ずクリティカルシンキングが高まってくると思います。

 

【本記事の執筆者】
松上 純一郎

同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。