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1on1の基本の基:聞き手の理想的な『あり方』とは?

1on1が普及されてから久しいですが、その実態は各導入企業でもそれぞれに異なっており、またもっとミクロな視点でみると、ひとつの企業の中でも、1on1を主導する人によって内容が異なっていることは少なくはありません。

1on1を導入する目的を各社員が理解していなければ、形骸化し、せっかくの時間をとって行っていても、期待していた効果につながらないこともあります。

そもそも、期待していた効果とは何でしょうか?
それが正に1on1の目的になるかと思います。
当然、導入されている各企業の目的もそれぞれに異なるかもしれませんが、1on1を通じて、
・メンバーに自走できるようになってもらいたい
・主体的に考え動ける組織にしたい

という場合に、コーチングのアプローチを検討されるケースが多いように思えます。

1on1について語るには一冊の本になるぐらい様々な要素がありますので、このブログにおいては、1on1を主導する立場、つまり聞く側の人の『あり方』についてお話ししたいと思います。
(みなさんの日頃の1on1のヒントになれば幸いです。)

さて、先日、管理職候補者向けの1on1研修に管理職候補の男性が参加されました。なお、このような研修の時には、研修の座学部分とご自身で体感してもらうためにコーチによる1on1セッションがセットになっていることが多いです。

その方と、初の1on1セッションをしたとき、
「実は自ら手をあげて、この研修を受けにきたわけではないんです。本当のところは、人材育成とかそういうのに苦手意識があって、できれば後輩育成に関わりたくないんです。」
とお話をされました。
これからのしばらくの間、研修を受けようという人が、実は自ら手をあげたわけではなく、さらに苦手に感じていて後輩とは関わりたくない、とセッションの冒頭に告白されたわけです。

これに近しいことは、仕事の場面でも遭遇することがあるかもしれません。
例えば、「今回、この部署に異動になったのは、私が希望したからではなく、完全に組織の都合によるものです。実は、ここでの業務に対しても、自信がまったくもてていません。」
などと、新しい部下の方が異動してきて初めての1on1で発言をされたら、果たしてみなさんはどのようにこの1on1を進めるでしょうか?

その部下をやる気を刺激させるために、
・この異動の背景を説明する
・部下に対してどのような期待をしているかを伝える
・前の上長から聞いていた「強み」を伝えて自信を持ってもらう
・部下の興味関心を聞いて、自部門との共通点を探る
など試みるかもしれません。説明や説得に神経が注がれることは実にあるかと思います。

では、実際に、先ほどの私のセッションで何をしたかというと、そういった説明や説得の類は一切していません。
「本当のところは、後輩育成とかそういうのに苦手意識がある」ということだったので、
具体的に、
・何に対して苦手を感じているのか? 
・そう思った背景はあるか?  
・苦手だと感じた体験はいつ、誰との時だったろうか? 
・反対にうまく関われた体験はあるか? 
・それはどんな時、そしてどんな相手の時だったのか?

と、彼が過去に体験したこと、その当時に感じたことに焦点をあてて、話を聴いていきました。

つまり、彼の主張をそのまま受け止め、それに対して良し悪しの判断をこちらからすることなく、更にこちらの持論を展開するわけでもなく、彼がもっている苦手意識に注目し、耳を傾けました。

20分ほどでしょうか、彼の体験や感情を洗いざらいに語ってもらい、改めて「今日は何が話せたら良さそうですか?」と聞いてみました。
すると、
「さっき過去を振り返りながら話しをしてみて、自分の苦手意識が、ある特定のエピソードをきっかけに始まっているというのに気付くことができました。でもあのエピソードのために、ずっと苦手意識を持ち続けたくないので、1on1を通じて、うまく後輩たちに活かせて、彼らの遣り甲斐だとか、大変なことがあっても前を向けるように、関わっていきたい。そのために何をしていったらいいかを考えてみたい。」
と、冒頭の「苦手だから関わりたくない」から大きく気持ちが変化していました。

この時、彼の考えを変えてやろうと誘導や働きかけが行われたわけではありません
私はただ、彼の言っていることに耳を傾けただけなのです。
彼の話が、一体どんな所に行きつくのか、コーチである私も予測はできておらず、結果的に彼が「後輩と関わっていきたい」とおっしゃったので、ではそのためにまずは何から始めたらよいかを一緒に考えましょう、となりました。
ちなみにもし、「やっぱり自分はそういったことには関心が全く持てない」となったとしたら、「研修は始まったばかりだけど、本当はどうしたいですか?」と聞いたかと思います。

2年前に出版され、発行部数6万部を越えた『LISTEN -知性豊かで創造力がある人になれる』という本をご存知でしょうか。
本のタイトルからも推察できるように、この本には聴くということがいかに大切な行為なのかについて書かれています。
その中で、ゲイリー・ネスナーという腕利きのFBI人質交渉人の話が、優れた聞き手の一例として出てきます。

人質交渉人は、「犯人が降参するような心を打つ 説得をするわけではなく、実際のところは、相手の視点を理解しようと耳を傾けている」(p.153)とあります。
ある男性が 以前付き合っていた女性を人質にとって、銃を突きつけている状況を例にあげ、ネスナーさんは犯人に向かって「 …”何が起きたのか話してくれないか”と言います。 … 私は相手に共感するんです。 相手が言いたいことを聞くのに時間をかけます。」( P.154)と書かれています。

つまり、ネスナーさんは、話し手(この場合は犯人)と同じ視点に立てるよう、理解を深めようと聴き、その結果、犯人の気持ちに変化が生じるわけです。

同じくこの本では、カール・ロジャースの話も取り上げられています。
カール・ロジャースとは、20世紀の最も影響力のある1人と言われている心理学者で、 アクティブリスニング (積極的傾聴)を提唱しています。
ロジャースは、自分がアクティブリスニングをしている状況を「 聞こえてくるのは、 相手の言葉、 考え、 感情、 その人にとっての意味、 さらに 話し手の無意識下にもある意味も聞こえてくる」と描写しています。彼にとってアクティブリスニングとは、どうふるまうかよりも「受け入れるモードでいる」ということ、とあります。 (P.149)

つまりポイントは、話し手の言っていることを評価せず、興味関心を持って耳を傾ける、ということです。
それがベースにあって始めて、話し手に変化が生じ、内発的で主体的な行動が生まれてくるわけです。

それを聞いて、上司部下の関係性でこの対話をするのは難しいのでは?と感じる方もいらっしゃるかと思います。まさにその通りで、上司が1on1の時に上司という役割を一旦脇に置いて、フラットな聞き手という役割で話しを聞くことが実は求められているわけです。
そう簡単に割り切れないという場合は、システムで解決できるかもしれません。例えば、直属ではなく、斜めヨコの部署のメンバーたちと組んでやってみるというのも手かもしれません。社員が自ら考え行動を起こす組織作りが目的であれば、必ずしも直属の上司が担当しなければいけないことはないはずです。

今回のブログでは、1on1の聞き手にとってベースとなる部分についてお話させていただきました。難しいと感じられる部分もあるかもしれませんが、まずは実際に試してみて、それによる変化を感じ取ることから、まずはスタートしてみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【出典】
LISTEN -知性豊かで創造力がある人になれる』ケイト・マーフィ (著), 篠田 真貴子(監訳) (その他), 松丸 さとみ (翻訳)

 

【本記事の執筆者】
小平 ゆう子

転職エージェント・JACリクルートメントにて、法人営業とキャリアコンサルタント職に約17年間従事。
外資系、日系大手、ベンチャー企業など様々な業態の企業より求人のオーダーを受け、営業系から技術系、そして管理部門系など1000名を超える幅広い職種の方とのキャリア面談に従事。
また、在職中に、組織マネージメント、産休育休取得などの経験も有し、キャリアだけでなく、ライフという視点でのコーチングにも強みがある。自身の経験や転職支援での経験も活かしつつ、それぞれのクライアントにあったキャリアの方向性や働き方を一緒に探索していくことを大切にしている。

アナザーヒストリー認定プロコーチ