ルバート代表の松上です。最近はマネージャーのスキルについて書いてきましたが、今回は私が所属した合唱団を題材に人材育成について書いてみたいと思います。今回の内容はマネージャー育成から新人育成まで幅広く適用できる内容だと思います。
私が所属した合唱団
私は高校、大学と合唱団に所属していました。高校では100人を超える団員を抱える大阪府下では有数の合唱団、そして、大学では100年以上の伝統を持つ同志社グリークラブという男声合唱団に入っていました。
同志社グリークラブは男声合唱の世界では有名な合唱団で、初めて生でその歌声を聴いた時は大きな衝撃を受けました。人間からこのような迫力のある声とハーモニーが出るのだと、驚いたものでした。そういった経験もあり、同志社大学に入ると同時にグリークラブの門を叩きました。
100年以上の伝統を支える練習法
100年以上の間、高い技術レベルを保ち続けるというのは大変なことです。入団する前はどのような練習をすればあのようなレベルの高い技術を維持できるのだろうかと不思議に思っていたのですが、入団して少しずつその謎が解けていきました。(以下はあくまでも私の考えですし、当時の状況をもとにして書いています。OB諸氏がいらっしゃいますので念のため)
まず一つ目は圧倒的な練習量です。週に5日間、時にはそれ以上の練習を徹底的にするのです。夏合宿に至っては1日10時間の練習を5日間行います。普通は声が出なくなると思うのですが、「声帯は筋肉だから鍛えられる」と教わった通り、確かに徐々に喉は強くなっていきました。
そして二つ目は基礎練習の徹底です。毎回の練習でとにかく発声練習を徹底的に行います。響きのある大きな声を出すために1回の練習で30分以上は発声練習をしていたと思います。歌の練習というより発声の練習をとにかく重視していたように思います。
そして最後の三つ目がオーディション制度です。私はこれが実は最も合唱団の技術レベルを維持するのに寄与していたのではないかと考えています。オーディションとは一般的にはコンサートに出演できるメンバーを選抜するためのものです。しかし、同志社グリークラブでは、基本的にコンサートには全員が出演することを目指します。「オーディション」は一度しか受けられませんが、落ちた人のための「再オーディション」は期日まで何度でも受けられます。つまり、同志社グリークラブでは「オーディション」とは落とすためのものではなく、全員が受かるまで実施し続けるものなのです。
そして「再オーディション」は1対1で受けるものなので、事実上の個別指導でした。私は3、4回生(関西では「年生」ではなく「回生」と呼びます)の時に「再オーディション」を行うパートリーダーを務めたのですが、10名以上のメンバーの再オーディションは過酷なものでした。定期演奏会の場合、オーディションの対象となる曲は20曲近くになるため、それを人数分となると、最低でも200回以上は再オーディションをやらなければなりません。時には徹夜で再オーディションを実施し続けました。
ただこの再オーディションは非常に効果的でした。歌っている本人は「音」や「表現や約束事」を自分ではしっかりやっているつもりですが、実は異なっていることが多いのです。それをパートリーダーが個別に指摘することで、一人一人がきちんと歌えるようになっていきます。
合唱というのは面白いもので、10人が正しい音を出していても、1人が微妙に異なる音を出すと、音の精度が下がってしまうのです。(とある指揮者がこれをガラスでこのように例えていました。「10枚の透明なガラスを重ねても、1枚すりガラスがあると、ガラスは曇ってしまう」)つまり、再オーディションは合唱団員のレベルの底上げを徹底的に行う仕組みだったのです。
そして、将来のパートリーダー候補に対してはこの再オーディションはより厳しい基準で行うことで高いレベルの人材を育成する仕組みとしても機能していました。私は2年生の頃はパートリーダー候補ということで、一般の団員とは異なる基準が適用され、何度も何度もオーディションを落とされました。
人材育成へのヒント
このグリークラブのオーディションの仕組みは企業の人材育成のヒントになる部分があると思っています。仕事の質を上げるためには「何を改善すれば良いかを自分で気付き、改善を続ける」ことが必要です。
しかし、「何を改善すれば良いか」を自分で気付くことが実は一番難しく、多くの人がここでつまずいているように感じています。そしてつまずくポイントは人によって異なります。よって重要になるのが「個別に」フィードバックをすることだと思います。
コンサルタントの育成もこの仕組みに非常に近く、若手が作成した資料や計画には何度も何度も先輩コンサルタントが修正点を指摘して基本的なレベルが身につくまで基礎を叩き込みます。
弊社の提供している「個別フィードバックプログラム」は実際の資料作成や会議運営、そして業務設計について、トレーナーが個別にフィードバックするという内容ですが、10日に1度、1時間程度のフィードバックを続けるだけで、劇的に対象の方のレベルは上がってきます。それは集合型研修の成果を凌駕しています。
そして、その基礎的なレベルが上がった状態で仕事に取り組むと、皆さん羽根が生えたように自信をもって自由に仕事に取り組んでいます。
まとめ
今回は長い歴史を持つ合唱団の事例を参考に人材育成のポイントについてみてきました。もちろん本人にある程度の意欲があり、フィードバックを受け入れる関係性ができていることが前提にはなりますが、個別フィードバックに積極的に取り組むことは飛躍的な人材のレベルアップに寄与するのではないかと思います。
個別フィードバックという意味では、昨今多くの企業が導入している1on1ミーティングが有効に機能する可能性があると思っています。1on1ミーティングを実務のフィードバックの場にうまく活用していくのはいかがでしょうか。
ただ、改善点のフィードバックを繰り返すと雰囲気が重くなる可能性が高いので、ぜひ「フィードバック≠ダメ出し」の記事もあわせてご覧いただければと思います。