me:riseキャリアコーチの山崎です。コーチ、ファシリテーターとしてビジネスパーソンのキャリア・リーダーシップ開発を支援しています。
今回は管理職の方へコーチングをする中で、複数の方からご相談を受けたテーマをご紹介したいと思います。
似たような経験をされた方が「ああ、そういうことだったのか」と納得できたり、その上で自分と向き合い前進するヒントをお伝えします。
ご相談はこのような内容です。
ご相談内容
「これまで指示、トップダウン型のマネジメントで育成や組織マネジメントをしてきました。さらにいうと、自分と同じことができるコピーを育てる方針で厳しく叱咤しながら育ててきたんです。
一方で、マーケットの状況も変わっていくし、もっと自分で考え動ける人材を育てていかなければならない。トップダウンで自分のコピーを育てるだけではこれからのビジネスに必要な人材は育っていかないと考えています。また旧来のように圧をかけ叱咤するマネジメントでは部下も退職してしまいます。人材マーケットも、働く人の価値観の変化もあり、以前のように採用をかければすぐにいい人材が獲得できる時代ではなくなっていると感じます。
だからこそ、一人一人に向き合って個々の部下の持っているものを引き出し、自分で考えチャレンジしていけるような関わり方、コミュニケーションに変えていきたいのです。そこで、管理職研修で学んだコーチングも取り入れながら新たなマネジメントスタイルを模索していこう。そう思っているんですが・・・、頭ではわかっていてもどうしても自分の価値観が邪魔をして言いたくなったり、感情的になってしまうんです。
変えたいけど思うように自分の行動を変えられないとき、どうしたらいいんでしょうね。」
このように、胸の中にある葛藤をお話しいただきました。
業界・職種も様々ですが、レガシー企業で長く経験を積まれた方が多いように思います。
変わりたいのに変われない
この方は、一人一人がリーダーシップを発揮する自律主体的な組織にしたいという思いをもっていました。コーチング研修を受け、1on1での具体的なコミュニケーションを、自分が教えるのではなく、部下の考えや行動を引き出すコミュニケーションに変えようと取り組んでいらっしゃる最中。
このような状況になるのは実は当然で、この状態は心理学的には「アイデンティティの危機」が生じている状態なのです。変化には抵抗やストレスが伴いますから、一筋縄で変えることは難しい。
人は仕事や生活の中で様々な経験をしながら「学習」をしています。その経験の中で学んだことが、自分の信念や自分自身のあり方・スタイルを形成していきます。
今回のケースでも、これまで獲得してきた信念や自分のあり方。
例えば、自分自身が受けてきた上司からのマネジメントであったり、組織文化の中でもコミュニケーションスタイルであったり、自身が試行錯誤しながら作り上げてきた当時の成功モデルであったり。そのような従来の経験から、自分の信念が形成され、無意識にこのような信念の中で意思決定をし、コミュニケーションをとっているものなのです。
しかし、今回のご相談のように、これまでの自分のやり方を変えようと思うとき、自分を作ってきた信念を壊されようとしていると抵抗します。これが自己免疫となって自分の変化を拒んでしまう仕組みです。
これまでの経験に誠実に向き合ってきた方ほど、このような状況に陥っているように思います。
無意識の「自己免疫」を知り受け止める
リーダー・管理職の皆さんが自分の行動を「変えたいのに変えられない」。今回のようなケースの時には、問いかけをしながら一緒に整理し、行動変容をサポートしていきます。
「●●さんは、本来はどのような行動・状態にしていくのが目標なのですか?」
「実際は、どのような行動が起こっているのかを教えてください。」
このような投げかけをしていきます。
まずは目指している状態、そしてそれに対して実際に起きていることをあらためてお話しいただき、整理して認識をあわせます。
その上で、実際に起こっている行動について、さらに問いかけます。
「実際にとっている行動。それをすることによって、●●さん自身は何が得られるんでしょう?」
その場や周囲に何が起きるかということではなく、自分に焦点をあてます。
自分にとってどんなメリットがあるのか、何が得られるからその行動をとったのか、行動の裏側にある目的を探っていきます。
この問いかけには、回答まで時間がかかる場合もあります。無意識に行っていて、自分に何のメリットがあってやっているのか認識できていないこともあるからです。
このように問いかけを続けていくと、
「ああ・・・。自分が一番知っている、ということに安心したい・・?そういうことかもしれません・・・」
「私は自分が評価されたいと思っているんですね・・・」
など、無意識に自分が思っていた自分の真の目的に気づきます。
その時は少し笑いながらお話される方もいらっしゃれば、
驚きとショックな表情を浮かべて静かにお話される方もいらっしゃいます。
人は自分自身の真の目的にはなかなか気づかないものです。
「さらに、そこに意識が向くのはどうしてでしょう?」
「こうあらねばならないなど、どのような信念が裏側にあると思いますか?」
こんな質問を重ねていくと、
・リーダーは実務において一番優れていなくてはならない
・部下の質問に答えられなければ価値がない
根底にはこのような信念を持っていた、とお話されました。
この状態に気づいたことでことで、
「いや、そうではないですね。実際はメンバーの方が詳しいこともありますし。」
「今はチーム単位で解をみつけて、よりよい成功を導いていくのが私の役割だから、自分が全て一番でなくてもいいはずです。」
など、自分の役割がアップデートされ、少しずつ行動を変えていくことができます。
これはハーバード大学教育大学院ロバート・キーガン氏が提唱している免疫マップをもとにした問いかけです。
人が変化したいと思っても変化できない背景には人の心理があり、その心理が免疫機能のように変化を拒んでしまう。変化に抵抗している背景にある無意識の信念や固定観念をあぶり出し認識する。そして、無意識に抱いていた変わりたい気持ちと変わりたくない気持ちをとらえていくことで、人の変化や成長を支援するといわれています。
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いかがでしたでしょうか?今回は、頭ではわかっている。自分のやり方・行動を変えようと思っているのに変えられない。こんな時に何がおきているのか、どのように向き合っていく方法があるのかについてお話しました。
マネジメントスタイルを変えたいけれどなかなか変えられない。同じような思いや経験をされていたら、ぜひご自身に問いかけてみてください。
自分と組織のよりよい変化と成長のために動いていきたいリーダーを心から応援しています。
【本記事の執筆者】
山崎 奈央
リクルート社でHRサービスの営業を経験後、人事コンサルティング会社で多数のコンサルティング案件やプロジェクトマネジメント、織開発・人材育成案件に携わる。個のリーダーシップを引き出すことで個と組織にとって良質で発展的な成長や成果に繋がることを体感する。
2018年にコーチ養成機関CTIジャパンにてプロ資格を取得しプロコーチの道へ。パラレルワーカーとして活動後、出産・子育てを機に独立。現在はパートナー企業とともにコーチング、研修を通じてビジネスパーソンのキャリアやリーダーシップ開発、組織開発を支援している。
・国際コーチ連盟認定PCC(Professional Certified Coach)
・CTI認定 CPCC®(Certified Professional Co-Active Coach)
・一般社団法人ワークショップデザイナー開発機構 認定ワークショップデザイナー