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「マネージャーになるまでマネジメントはやらない問題」を考える

ルバート代表の松上です。新入社員の受け入れも落ち着いて、最近人事部の方から聞く話題はマネージャー育成への課題感です。「マネージャーが不足していて…」、「次世代のマネージャーが育成できていなくて…」こんな話を聞く機会が大変多いのです。そこで今回はマネージャー育成のポイントについて書きたいと思います。

 

マネージャーが行う「マネジメント」とは?

マネージャー育成を考えようとすると、まず「マネージャーの仕事は何か?」について考える必要があります。マネジメントと言えば、経営学の大家であるドラッカーは次の5つの能力と定義しています。

1. 目標を設定する能力
2. 組織化する能力
3. コミュニケーション能力
4. 評価測定能力
5. 問題解決能力

目標を設定し、それに向けてメンバーを組織化し、メンバーとコミュニケーションを図り、成果を評価し、もし問題があれば解決する、そんな能力ですね。

ただ、日本で人気のあるドラッカーですが、経営学の世界では実は現在メジャーな存在ではありません。なぜならば現代の経営学の世界ではデータとして実証されているものが評価されるからです。そんな経営学の世界で現時点で、エビデンスがあって、一定の評価を受けている理論が、「変革型リーダーシップ」です。

変革型リーダーシップの代表的な学者であるコッターの整理は大変参考になりますので紹介します。変革型リーダーシップは基本的にはリーダーシップについての理論なのですが、コッターはリーダーシップとマネジメントを分けて考えました。


 

一般的にはマネジメントはリーダーシップの上位概念で語られることが多いので、コッターのマネジメントをここでは「マネジメント(狭義)」としています。その中身を見ると三つです。

1. 計画・予算策定
2. 組織編成と人員配置
3. 統制/問題解決

いかがでしょうか。ドラッカーの定義と非常に近いことがわかると思います。①「計画と予算策定」で目標に向けてのタスクの整理とお金の配分を決め、②「組織編成と人員配置」で誰にどの役割を割り振るかを決め、③「統制/問題解決」ではその後の進捗を管理し、問題が起これば適宜解決していく。

コッターの定義では、リーダーシップがビジョンやコミュニケーションなどの「変革の推進」の役割を担うのに対して、マネジメントはどちらかというと「チームの効率的な管理」に近いもののように感じられます。

リーダーシップがCEO的な役割に対して、マネジメントはCOO的な役割と言い換えられるかもしれませんし、車で言うとリーダーシップがエンジンでマネジメントはハンドルのようなイメージかもしれません。

リーダーシップとマネジメントは両輪ですので、どちらが欠けても機能しないのですが、ここでは「マネジメント(狭義)」に絞って話を進めたいと思います。皆さん恐らく「リーダーシップ」にも興味があると思うのですが、それは次回書きたいと思います。

 

マネジメントスキル育成の問題

マネージャーにとって必要なスキルである、①計画・予算策定、②組織編成と人員配置、③統制/問題解決、ですが、この育成には大きな問題があります。それは「マネージャーになるまでマネジメントはやらない問題」です。

日本企業でよくあるのは、営業などで大きな成果を残した方が評価されて、マネージャーに昇進するパターンです。私がコンサルタントとして現場でよく見てきたのは、個人としてのパフォーマンスが高くても、マネージャーになった瞬間に今までとは全くことなるスキルを求められて、機能しなくなるパターンです。

機能しなくなるだけなら問題ないのですが、その代わりに精神論や思いつきの打ち手で補おうとするのがまたよく見られるパターンです。「一致団結して取り組んで行こう」とか「質の高いコミュニケーションをお客様と取ろう」とか「チームでのコミュニケーションを密に取ろう」とか一体具体的に何をやったらよいのかわからない指示が飛ぶことはよくあります。部下はたまったものではありません。

また、前任者の逆のことをやるというパターンです。これも何をやったら良いかわからないから、前任者の否定から入ろうというアプローチです。

これらの背景にあるのが、「マネージャーになるまでマネジメントはやらない問題」なのです。この真の原因としては、マネージャーになる前からマネジメントに関する研修やマネジメント機会を与えていないことにあります。

多くの企業では階層別研修でマネージャー向けの研修を設定していますが、マネージャーになってからの研修が大半で、マネージャー候補の研修を充実させている企業は多くありません。

 

マネジメントスキルの育成 – 外資系企業の例

私は外資系のコンサルティング会社に所属していたので、外資系の企業のマネージャー育成プロセスに触れる機会が多くありました。外資系企業ではかなりシステマティックにマネージャーが育成されていきます。まず一つ大きいのは、早い段階でマネージャー候補を選抜するというところです。場合によっては新卒の採用時点でマネージャー候補は既に別枠で採用しています。

そしてこのマネージャー候補にはマネジメントスキルを身に着けるための研修と機会をどんどん提供していきます。若いうちに研修を受けさせて海外の子会社のマネージャー経験をどんどん積ませていきます。

このように外資系企業はマネジメントスキルを明確に定義して、そのスキルを若いうちからインプットし、マネジメントの機会を提供していくのです。

 

マネジメントスキルを高めるために

では、基本的に早期の選抜を前提としない日本企業がマネージャーのマネジメントスキルを高めるためにはどうしたらよいのでしょうか?私は長期的な施策としては若手にマネジメントスキル教育を施し、プロジェクト単位でのマネジメント経験を積んでもらうということだと思っています。つまり将来を見据えた投資を早めから行っていくということです。

短期的な施策としては、現職のマネージャーに対して、今からでも超実践的なマネジメントスキルを徹底的にインプットすることだと思っています。弊社ではロジカルシンキング、ワークプランニング、ビジネスドキュメンテーション、会議ファシリテーション、会議プレゼンテーション、1on1研修などを通してマネージャーのマネジメントスキルの向上のサポートをしています。

その研修の中で重視しているのが、マインドのみの抽象的な議論では終わらず、超実践的にすることです。マインドに加えて、とにかくその日からできるように具体的な方法論とツールの提供、そしてツールの使い方までをカバーすることが重要です。

弊社のワークプランニング研修を例にとると、①チームの計画策定をするためのエクセルファイル、②メンバーとコミュニケーションするためのパワーポイントファイル、③メンバーの役割を明確にするためのパワーポイントファイルなどのすぐに使えるツールを提供しています。

コンセプトだけを伝えるのみですと、実行のためのツールを自分で考えなければならず、実行のハードルが上がってしまい、結果的に何も変わらないということに陥りがちです。

もちろんツールまで提供しても、できるマネージャーとそうでないマネージャーが出てくると思いますので、その上で実行できているマネージャーをしっかり評価していくということがポイントかと思います。

 

まとめ

マネージャーに必要なスキルというのは抽象的になりがちです。そのせいで、具体的に何を学べばよいか、何をすれば良いかが曖昧になり、結果としてマネジメントスキルが高まらないということが起きがちです。マネージャーに必要なスキルを具体的に定義し、インプットと機会を早いうちから与えること、これがマネジメントスキルを高める要点かと思います。企業としてマネジメントスキルのインプットと機会を従業員に与えることは従業員にとってはチャレンジや成長の機会となり、結果的に従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下にもつながります。もしこれらのマネジメントスキルにご興味ある方は弊社の体験セミナーをご受講いただければと思います。

次回はマネージャーにとってもう一つの必要なスキルである、リーダーシップについて書いてみたいと思います。