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今日から実践できる!調整力を一気に上げる8つのステップ

ルバート代表の松上です。前回は業務での見えない工夫のリスクについて書きました。今回は「調整力」について書いてみたいと思います。

本記事の執筆者
松上 純一郎マツガミ ジュンイチロウ
  • 株式会社Rubato代表取締役
  • 『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』
    『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』著者

私はこれまで数多くの調整業務を経験してきました。その結果、複雑な調整でなければ、ある程度利害関係者の要望を聞いただけで「大体この辺が落としどころだな」とパッと想像できるようになってきました。

ただ、この力は経験に依る部分が大きく、他の人から「なぜその落としどころに至ったのですか?」と聞かれてもうまく説明できないことが多々あります。また、他者の調整業務についてコメントするときも「なんとなくその方向性は違うのではないか」と感覚的にフィードバックをしてしまうことがありました。

Rubatoでは言語化を大事にしています。そこで、自分の思考プロセスを改めて言語化してみたところ、調整にはステップがあると感じました。今日はそのステップを、具体的な事例を交えながらご紹介したいと思います

 

調整業務とは?

調整というのは、多くの場合「複数の利害関係者がいて、それぞれの要望が異なる」状況で発生します。仕事の現場では、日々さまざまな調整が求められます。

例えば、以下のような調整です。

●社内の会議スケジュールの調整
●メーカーにおける納期の調整
●開発部門における品質とリリース日の調整
●営業における顧客要望と仕様の調整
●上司と部下の期待値や業務の調整

いずれも「人によって立場や優先順位が異なる」からこそ調整が必要になります。調整業務をもし一言で整理するならば、「複数の利害関係者の異なる要望や条件を整理し、関係者の納得感を担保しながら、組織やプロジェクトの目的達成に向けて合意点や解を導くこと」になります。

調整業務でよくある失敗例

この調整業務は日常でよく発生するのですが、実はよく考えて取り組まないとあとから関係者からクレームが出たり、不満が溜まったりする結果になることがあります。調整力が不足している人が陥る、調整業務の失敗例をいくつか挙げてみましょう。

1. 片方の要望を丸呑みしてしまう

調整というより「言われたまま」に近い状態です。短期的には楽ですが、他方の不満や摩擦が残り、後で「なぜ相談してくれなかったのか」と信頼を失うケースがあります。顧客の要望を丸のみして、後から大変なことになるというのがよくある例です。

2. 両方の要望を半分ずつ満たすだけ

「とりあえず真ん中で割ろう」というやり方です。一見公平に見えますが、実際には誰も満足しない“中途半端な妥協”になりやすく、皆に不満が残り目的を達成できないことがあります。

3. 目的を見失ってしまう

「日程をどうするか」「予算をどう配分するか」と手段ばかり議論して、本来の目的(顧客への提案を成功させる・品質を守るなど)を忘れてしまうパターンです。調整自体が形骸化してしまっているパターンです。

4. 当事者以外の周辺への影響を考えていない

当人同士では納得したように見えても、現場メンバーや顧客にしわ寄せが行くことがあります。結果として「現場が疲弊してプロジェクトが回らない」などのトラブルに繋がります。

こうした失敗例に共通しているのは、「調整を大局的・構造的にとらえていない」ことです。そこで役立つのが、次に紹介する「調整の8つのステップ」です。これに沿えば、調整を場当たり的な勘や妥協に頼らず、目的に向けて納得感を持って進めることができます。

調整の8ステップと事例

調整の8つのステップは以下の通りです。

① 関係者のそれぞれの目的と重視する要素の優先順位を考える
② 極端に関係者の要望に寄せた場合を考えてみる(Aさんの要望を100%聞いた場合、Bさんの要望を100%聞いて場合はどうなるか)
③ 関係者の共通の目的を達成するための案を考える
④ その場合の関係者にとってのメリットとデメリットを考える
⑤ 関係者の反応やその場合の結果を想定する
⑥ 他の関係者への影響を考える
⑦ ③〜⑥を繰り返して他の案を検討し一番良い案を採用する
⑧ そもそも利害調整ではなく関係者の要望を同時に満たせる新たな選択肢も考えてみる

この8つのステップは抽象度が高いので、次のシンプルな事例を用いて一つずつ説明していきたいと思います。

事例:2人の部長の会議スケジュール調整

あなたは、営業部長と開発部長が参加する会議のスケジュール調整を任されているとします。営業部長は「来週中に会議を開いて開発部長の意見を聞かないと顧客提案の期限に間に合わない」と主張しています。一方で開発部長は「来週は製品リリース直前で非常に忙しいため、会議は再来週にしてほしい」と言います。

どちらの言い分ももっともですが、このままでは平行線です。さて、どのように調整すれば良いのでしょうか。ここから、調整の8つのステップに沿って見ていきましょう。

調整の8ステップの流れ

① 関係者のそれぞれの目的と重視する要素の優先順位を考える

最初に必要なのは、関係者の「目的」と「優先順位」を整理することです。この事例では、営業部長は「顧客提案の期限に間に合わせたい」という目的を持ち、スピードを最優先しています。一方で、開発部長は「リリース作業に集中したい」という目的を持ち、自身のリリースする製品の品質確保と負担軽減を優先しています。この出発点を明確にすることで、単なる「日程争い」から一歩踏み込んだ調整が始まります。

② 極端に関係者の要望に寄せた場合を考えてみる

次に「100%営業部長の希望を通した場合」と「100%開発部長の希望を通した場合」を想定します。営業部長の要望を優先して来週に打ち合わせを設定すれば、開発部長は製品リリースの準備の時間が取れず不満が残るでしょう。逆に開発部長の要望を優先すれば、営業部長は来週打ち合わせが出来ず顧客提案の機会を逃してしまうかもしれません。両極を考えることで、極端な解決策のリスクを把握できます。

③ 関係者の共通の目的を達成するための案を考える

そのうえで、両極の間にある案を検討します。ここで重要なのは関係者の共通の目的は何なのかということです。ここでは、「顧客への提案の機会を逃さないこと」、また、「製品リリースを成功させる」ということだと思います。調整の局面ではどうしても関係者がそれぞれの立場での優先すべきことを主張しますが、「そもそも皆で何を実現する必要があるのか」という大局的な見地を調整者が持つことは大変重要なことです。その上で折衷案を考えれば、表面的な50:50の折衷案に陥ることを防ぐことができます。

例えば、営業部長の顧客への提案機会を確保することと、開発部長の製品リリースの成功を担保するために、「来週中に短縮版の打ち合わせを行って顧客には提案し、再来週にフォロー会議を実施する」という方法が考えられます。

④ メリットとデメリットを整理する

案が出たら、そのメリットとデメリットを整理します。営業部長にとっては短縮版の打ち合わせでは「提案に必要な最低限の情報を得られる」というメリットがありつつ、「全ての論点はカバーできない」というデメリットもあります。開発部長にとっては「リリースに集中しながら、顧客提案への重要ポイントを共有できる」メリットがある一方、「短時間でも会議に時間を割かれる」デメリットもあります。

⑤ 相手の反応を想定する

次に、その案を相手に提示したときの反応を想像します。来週の短縮版の打ち合わせの案を、営業部長は「完全でなくても提案に必要な要素が揃えばOK」と考えるのではないか、そして、開発部長は「短時間で済むなら許容できる」と受け止める可能性が高いと想像しました。事前に反応を想定することで、その反応に対する準備も可能になります。

⑥ 他の関係者への影響を考える

直接の関係者の調整を行っていると、それ以外の関係者への影響を忘れることがあります。そこで必ず他の関係者への影響を想像します。この事例では、会議参加メンバーにとっては、来週の短縮版の打ち合わせは「短時間で要点を絞った準備」が必要になりますので負担が増える部分があるかもしれません。一方で、顧客にとっては「期限通りに提案を受け取れる」という利点があります。

⑦ ③〜⑥を繰り返して他の案を検討し一番良い案を採用する

もし最初の案が十分に納得できるものでなければ、③〜⑥を繰り返して他の案の可能性を探ります。例えば「来週は顧客に資料を共有するだけにして、顧客への提案の機会を再来週まで引き延ばし、会議は再来週に行う」といった新しい案が生まれるかもしれません。繰り返し考えていくつかの案を出すことで関係者の納得度を高めることができます。

⑧ そもそも利害調整ではなく関係者の要望を同時に満たせる新たな選択肢も考えてみる

最後に、利害調整的な案にとらわれず、関係者の要望を同時に満たせるような創造的な解決方法を探ります。思考のジャンプが必要な解決策ですが、創造的であり、できれば最初にこの方法ができるとベストです。(ただ、なかなか良いアイデアが出ることは多くはないので、ここでは最後のステップに置いています。)

この事例では、営業部長が来週までに顧客への提案のドラフト資料を作成し、開発部長は資料に対してポイントだけコメントを返す。それを受けて営業部長は顧客に一次提案を行い、その上で再来週に集中した会議を行い、顧客に更にブラッシュアップした内容を提案する。この方法なら、双方の要望をほぼ満たせます。形式に縛られず、まったく新しい方法を考えることが、調整の質を大きく高めます。

まとめ

いかがでしょうか。8つのステップが煩雑に感じられた方もいるかと思います。多くの場面ではより直感的に落としどころにたどり着くケースが多いと思います。しかし、迷った時には上記のステップを実際に紙に書いたりして整理すると良い落としどころが見つかることがあると思います。

また、調整が苦手だと感じる方も、このステップを意識するだけで、誰かの要望を一方的に聞いたり、一方的に無視するのではなく、関係者にとってより納得感のある調整ができるようになります。特に大事なのは「共通の目的は何なのか」というところです。この「共通の目的」を調整者が忘れないことが、良い解を出す上で最重要なことだと思います。

「調整」とは妥協ではなく、関係者全員にとって納得できる形をどう作り、「共通の目的」を達成するか。次に調整業務に直面したとき、ぜひこの8つのステップを思い出してみてください。

 

【本記事の執筆者】
松上 純一郎

同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。