1.企業様向けコーチング導入時の目的
me:Riseでは、企業様に様々な目的でコーチングを導入いただいております。
導入目的は様々ですが、代表的なものは以下の通りです。
(1)社員が自分らしいキャリアを考えるきっかけとする
(2)社員の自律的なキャリア形成を支援する
(3)1on1ミーティング開始に伴いコーチングを体験し実践につなげる
(4)1on1ミーティングの引き出しを増やす
などです。
本記事では、「(3)1on1ミーティング開始に伴いコーチングを体験し実践につなげる」目的で導入された企業様の中で、「特定の部下に対する関わり方をより良いものにしたい」というテーマで実施されたコーチング事例をご紹介いたします。
2.部下への関わり方を変える必要性があると認識したコーチング事例
コロナ禍前は1on1という言葉が企業に浸透し始めてきた時期ですが、現在は多くの企業で1on1が実施されています。そのようななか、私たちも1on1そのものを導入される企業様、新たに管理職となり部下への1on1を実施する側となったマネージャー層以上の方に向けて、1on1ミーティング研修を実施したり、1on1を受ける側(≒コーチングを体験する側)の経験をしていただき、どのように部下と1on1を実施するかを考えるきっかけにしていただいています。
マネージャー層の方がコーチング体験をしていただく場合、取り扱うテーマは基本的に自由です。ご自身のキャリア、部下育成、チーム作りなど、様々です。
そのようななかで、今回はご自分の部下への関わり方を変える、アップデートする必要性を感じた事例をご紹介します。今回取り上げるのは一つの事例ですが、多くの上司の方がコーチングを通して気づきを得られるテーマでもあります。
なお、守秘義務の観点からお名前や内容は変更しております。
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<事例>
コーチングを受けられたのは、松本さん(仮名)。
食品商社に勤める30代の男性マネージャーです。
現在の会社が2社目で、社歴は約5年、昨年末からマネージャーに昇進し部下を持ち始めました。常に自分を成長できる環境におきたいという向上心が強い方ですが、性格は穏やかで口調からも相手に対する気遣いがうかがえました。
コーチングで扱うテーマを設定する際に、松本さんは今の状況をこうお話されました。
「マネージャーになり複数の部下を持っていますが、どの部下も一生懸命働いてくれていてとても助かっています。皆プロ意識が高いです。そのようななか、育成に関して悩んでいる部下が2名います。二人ともこの2年以内に中途で入社したメンバーです。うち、特に悩んでいる部下、Aさんへの関わり方についてコーチングでお話ししたい」とのことでした。
コーチより、具体的にAさんに関して何を悩んでいるかをうかがうと、
「まず全然相談をしてくれないです。リモートワークも週半分あり顔を合わせる機会が少ないということもありますが、なかなかあちらから相談してくれないですね。私からAさんに大丈夫ですか?と聞いても、大丈夫です、しか返事が来ません。実際は大丈夫じゃ無い状況が多く、あとで大事になっていることに気づいて私や他のメンバーが火消しに追われることも数回ありました。他の中途採用のメンバーと比べても明らかに成長が遅いんです。」
と返ってきました。
部下育成に困っている場合、多くの場合は上司の方はまずは部下がこういう問題があるからうまく仕事が回っていない、と、部下の方の課題をあげられます。
上司の方からすれば、もっと適切な行動が取れるはずなのにどうしてできないのだろう?と感じるので自然なことです。ただ、この見方のままだと「Aさんに問題があるのでAさんが変わる必要がある」という考えで終わってしまい、松本さん自身の関わり方を振り返えったり、見直すきっかけにはなりにくいです。
そこで、コーチからは、松本さんがなぜAさんに対してその様に感じているのか、そしてAさんの立場に立つとどう見えるかを聞いてみました。
「松本さんからみて、Aさんの成長が遅い理由は何だと思いますか?」
と聞くと、
「前の職場でも今と似た職種だったので、おそらく前の職場での仕事の進め方でやればできると思っているんでしょうね。また、自分でやりきろうという気持ちが強い様に感じます。Aさんと1on1を始めましたが、そこでも業務的な内容ばかりで悩みや困っていることは話してくれないです。なので私もAさんに困っていることありますよね、とは聞きにくい状況です。」と返ってきました。
そこで、松本さんには自分視点ではなくAさんの立場に立って考えていただこうと思い、視点を変える質問をしました。
コーチ:「そうなんですね。ありがとうございます。もし松本さんがAさんだったら、今の状況をどのように感じてそうですか?」
松本さん:「そうですね・・。苦しいんじゃないでしょうか。転職してから結果が思うようにでていないだろうし。今の業務に関する知識も全部理解できていないだろうし、お客様との過去の経緯も見えていない部分があるだろうから何をどう進めれば良いかが見えていなんじゃないかな・・結構きついだろうな・・。」
コーチ:「Aさん、きつそうな状況にいらっしゃるように見えるのですね。松本さんは、これまでAさんが御社に入った想いや今の心境を聞かれたことはありますか?」
松本さん:「・・そういえば聞いたことがないですね。結構話していると思っていたのですが、仕事の話ばかりでAさんの気持ちや想いを聞いたことがありませんでした。今まで他のメンバーとはうまく仕事が回っていたので聞く必要がないと思っていました・・・。Aさん、孤独かもしれませんね。。」
視点(立場)を変えて現状を見ていただくなかで、Aさんの成長が遅いのはAさんの問題である、という前提から、もしかしたら自分の関わり方も変える必要があるのでは、という気づきが松本さんのなかで起こった瞬間でした。
そのあと、ここまで話してみて気づいたことを改めてうかがうと、
「これまで関わってきたメンバーとは今の関わり方でうまく仕事が回っていたので、自分の関わり方を変える必要がないと思っていました。でも、今日Aさんをテーマに話してみて、自分はあまり人に対して自己開示をしないし、人の感情や考えにアンテナがあまり立っていなかったと気づきました。もしかしたら今のメンバーに対してももっと深い関わり方をした方が関係性も、チーム全体も良くなるのかなと思いました」
とお話しされていました。
その後、松本さんはAさんと業務の話ではなくAさんの考えや想いを聞く対話の時間を持ったところ、Aさん自身も今の状況に焦りを感じて悩んでいることを話してくれたそうで、以来、頻繁に相談に来てくれるようになったとのことです。またAさんの仕事に対する考えも知り、松本さんのAさんに対する見方にも変化が見られました。
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2.まとめ
今回の松本さんの事例のように、コーチングを通してご自身の部下への関わり方をアップデートしていく必要性に気づかれる例はとても多いです。
今まではこれまでの関わり方でうまくいっていたのに、特定の部下にはうまくいかないのは部下に問題がある、と最初は考える傾向にありますが、対話を続け相手の立場に立つことで客観的に相手から見えるご自身の関わり方の改善余地やチーム全体の問題が見えてくる場合が多いです。
そして、マネージャーの方がご自身の関わり方の改善余地に気づき取り組まれることで、部下が恩恵を得るだけでなくその方もよりマネージャーとして新しい関わり方という武器を持ち自信を得る、成長することができるのがコーチングのメリットと感じます。
本日の内容が、少しでも皆さまのお役に立てれば嬉しいです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
中田 真理子
大学では心理学を学び、三井物産(株)に13年間勤務。国内外の財務業務や石油・ガスのエネルギービジネスを経験。ロシア、イギリスでは多様な国籍・価値観のメンバーと共に働く。
多様化する環境の中で、働く人が自分らしく輝いて仕事をする、人生を送ることによりダイレクトに深く関わりたいと思い、独立。現在は20代の若手から管理職を対象とした研修講師、コーチとして活動中。
自身の経験や心理学のバックグランドを踏まえ、個々人が自分の内面を客観的に振り返り、自分の軸やビジョンを引き出すコーチングに定評がある。
・CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ (CPCC)
・全米NLP協会プラクティショナー