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マネジャーがコーチングを受けることの効果

目次:
1.まずはマネジャーから
2.マインド面の効果:思考が整理されて不安が軽減することでエネルギーが上がる
3.スキル面の効果:「自分が部下の課題を解決しなければならない」(解決モード)を手放せる
4.組織への影響:チームの雰囲気が明るくなる、部下が自分で考えて行動できるようになる
5.まとめ

 

1.まずはマネジャーから

マネジャーの皆さんをセッションさせていただくと、まず感じるのは、本当に大変そうだな、ということです。成果をあげる、目標を達成するために部下に仕事をアサインする(最後の責任はとる)、部下を育成し、モチベートする、他部署の調整もする、チームの不調和を解決する。スケジュールは常に打ち合わせでいっぱいでゆっくり考える時間もない、そんな状態の方が多いと感じます。

米国の調査会社ギャラップ社は、2022年の著書「ザ・マネジャー」の中で、「チームのエンゲージメントの分散の70%は、マネジャーによって決定される」と結論付けています。そんな組織の要であるマネジャーがコーチングを受けることは、マインド面とスキル面の両方で効果があり、それがチームの雰囲気に変化をもたらし、メンバーの成長にもつながると考えます。

コーチングの効果は多くありますが、今回は私がこれまでマネジャーの皆さんをセッションさせていただいた経験から、特に大きいと感じる効果と、そのプロセスについて整理したいと思います。

 

2.マインド面の効果:思考が整理されて不安が軽減することでエネルギーが上がる

まずはマインド面の効果です。常に業務に追われているマネジャーの皆さんの頭の中は、何からどう進めたらよいのか、という不安や焦りで一杯なのか、初めてセッションさせていただく時には暗い表情をされている場合が少なくありません。そんな中で、利害関係の無いコーチに、リラックスして、自分の頭の中のモヤモヤを安心して吐露し、のびのびと思考を広げてみると、意外とやれていたことはあるな、とか、この順番でやれば何とかできそうだな、などと気付かれることが多いようです。

人は不安やモヤモヤした気持ちがあると、それが気になって大切なことに集中できなくなる「エネルギー漏れ」という状態になり、イライラしたりして周りの人にも悪い影響をもたらしてしまうことがあります。

「頭の中がすっきりしました、また頑張れそうです。」マネジャーが思考を整理してすっきりし、エネルギーが満たされた状態でいることはとても大きな意味があると思います。

 

3.スキル面の効果:「自分が部下の課題を解決しなければならない」(解決モード)を手放せる

次にスキル面の効果です。企業の1on1研修では、「部下に8割、自分は2割」など、部下に沢山話してもらうことが推奨されますし、GROWモデルなどのコーチングの型も学びますが、実際にできる方は多くないようで、「気が付くと自分ばかり話している」という声をよく耳にします。

その背景には、「上司は部下の課題を解決すべき」という信条や、「もっといいやり方があるのだから教えてあげたい」、という思いがあるようです。この「解決モードを手放して、部下に考えてもらう」ということが、マネジャーの皆さんがコーチング的な関わりを手に入れる際の一番大きなハードルになっていると感じます。

型として学んでいただいたGROWモデルは「解決モード」を手放すためにとても有効なもので、私たちコーチもこれを基本として、マネジャーの皆さんが思考を広げるための質問をします。セッションを通し、「解決モードを手放すとはこういうことだったんですね、頭に汗かいて考えてみて、自分で答えにたどり着きました」とか、「思考を広げてみて、そういえば何となくこうすればいい、ということを自分でも考えていたことに気付きました、それを言葉にできたことですっきりしました」など、効果を体感されるようです。

 

4.組織への影響:チームの雰囲気が明るくなる、部下が自分で考えて行動できるようになる

マインド面でマネジャーの皆さんのエネルギーが上がり、精神的に良い状態になることは、部下に対してポジティブな声掛けができるようになる、笑顔が増える、等の変化につながることが期待できます。

ダニエル・キムの成功循環モデルでは、チームの関係性の質を良くすることが、メンバーの思考の質を高め、行動に繋がり、結果の質につながる、と示しています。逆を言えば、関係性の質が悪い(例えば上司の機嫌が悪い)と、部下の思考や行動の質が下がり(怒られないように当たり障りのない方法を考えよう、挑戦するのはやめておこう)、結果の質が下がる、とも言えます。チームの要であるマネジャーの状態をよくすることは、関係の質を良くする肝と言えるはずです。

一方、スキル面の効果、つまりマネジャーが解決モードを手放すことで、1on1の質が上がり、部下が自分で考えるようになることも期待できます

マネジャーがセッションを受けて感じた、「自分でのびのびと話したことで自分が気づく」という体験を部下の方も感じられたら、「上司が話す解決策を聞く1on1」や、「自分の意見にダメ出しされる1on1」ではなく、「自分の思考を広げたり、整理したりできてすっきりする、楽しみな時間」になるのではないでしょうか。

以前、ある企業のマネジャー(Aさん)とセッションさせていただく機会がありました。その方は、スピード感を持って成果を上げる、いわゆるハイパフォーマーとして名を上げ、マネジャーに昇格されたのですが、部下が自分から動かない、と育成については課題を感じておられました。

自分ばかりしゃべる1on1が原因の一つであることに気付き、覚悟を決めて解決モードを手放すことにしたAさんは、GROWモデルの型が書いてある紙を1on1の時に部下の前に置き、「これから自分はこの型の通りに質問してみる。始めはうまく出来ないかもしれないが、解決策を言わないためにはこれしかないので頑張る。だからあなたも協力して欲しい」と伝えたそうです。

部下数名との1on1を終えたAさんは、「超棒読みの質問でしたが、この通りにやるって宣言しちゃったし、大汗かきながらやりましたよ。でも部下からは意外と好評で、沢山話せてよかったって言われました。これまでどれだけ自分がしゃべってたのかってことですよね。」普段切れ者のAさんが汗をかきながら、しゃべらないように我慢しながら、一生懸命質問されている姿を想像し、胸が熱くなる思いがしました。

 

5.まとめ

マネジャーへのコーチングを導入する企業が増えていますが、その目的として、「1on1のスキルを上げることはもちろんですが、その前にまずマネジャーを元気にしてあげてください」という声をいただくようになりました。これまでの成果指標に加えてエンゲージメントや組織活性度など、新たな指標も加わり、マネジャーに求められる役割はますます大きくなっています。まずはマネジャーを満たすことから。マインド面、スキル面の両方で、コーチングの果たす効果は大きいと感じます。

*Aさんのエピソードは、許可をいただいて掲載しております。

 

【本記事の執筆者】
重次泰子

日本銀行で国際金融調査、為替のディーリング業務に約10年従事。4年間の子育て期間を経て、三菱総合研究所で金融経済のリサーチ業務に計13年携わる一方、「メンバーの幸福度とチームの成果の両方を引き上げる仕組みづくりはないか」という問題意識を持ち、コーチングを学ぶ。

現在は個人とチームのリソースを最大限に活かし、成果を上げることを目標に、ビジネスパーソン向けのコーチングや、企業研修などを中心に活動中。 個人の強みにフォーカスし、その人らしさを活かして成果を上げるコーチングに定評がある。

国際コーチ連盟認定コーチ(PCC)
GALLUP認定ストレングス・コーチ