みなさんはタスクの優先度をつけることにどんなイメージをお持ちでしょうか。おそらく優先度付けに苦手意識を持たれる方が多いのではないかと思います。私は経営者という立場上、物事の優先度をつけなければならない場面が多く、業務の優先度を常に考えています。しかし、私が社員に伝えた優先度について、「なぜその優先度なのですか?」ともし問われると、うまく言語化できないことも多いような気がしています。
そこで、このブログでは日々の業務の生産性に大きく影響するタスクに対する優先度付けについて、自分が頭の中で考えていることをできるだけ言語化してみたいと思います。
よくあるパターン
まずは、優先度付けスキルが不足している人が陥る、よくあるパターンを最初に見ていきましょう。
①やりやすいタスクから始めてしまう
朝出社したら、何も考えずにまずメール返信・チャットの返信などを行ったり、上司から指示された「いつでもいいからやっておいて」という緊急度が低いが単純な作業からとりかかってしまう、というパターンです。心理的には楽ですが、インパクトの小さい細かいタスクに時間を使ってしまい、午後の遅い時間に複雑なタスクに着手するも、集中力が切れて進まない、というような状況に陥りがちです。
②締切が近いものから始める
目の前の締切に反応して動く“レスポンス型”です。このパターンが良くないのは、締切が比較的先の、作業負荷が高い重要タスクが後ろ倒しになり、その結果、本当に重要なタスクが締切に間に合わなくなるというリスクを抱えてしまうことです。
いずれの場合も、短期的な安心感は得やすいのですが、いつまでたっても本当に重要なタスクに時間をかけられず、長期的にはいつまでたっても安心感が得られないという結果になってしまいます。優先度付けをして業務に取り組むというのは、自身のアウトプットを高め、常に安心感を持って業務に取り組むために必須のスキルなのです。
優先度付けの考え方
それでは優先度付けとはどのような行為なのでしょうか。一言で表すと、「自分の限られたリソースで業務インパクトを最大化するための意思決定」と言えると思います。つまり、「何にどれだけリソース投入すれば、長期的な成果が最大化するか。」を考えていくことです。
ここで一つ留意すべきなのは、「やる/やらない」を決めるのが優先度付けではないということです。よく「戦略」は「やることを決めること」ではなく「やらないことを決めること」と言われます。つまり選択と集中の考え方が大事というわけです。もちろんこの考え方は大変重要なのですが、実際の業務において、上司・顧客・チームに対して、「これはやる、これはやらない」と言うことは難しいと思います。これはそれぞれの業務が大なり小なり意味をもっているからです。
そこで大事なのが、「この業務にはこれくらいの労力を割く」ということを考えて、周りと合意をとるということです。このリソース配分の調整アプローチが周囲との合意が取りやすく、実行性が高いのです。
具体的な優先度付けの方法
では、具体的な優先度付けのステップを見ていきましょう。優先度付けは2ステップで行います。①インパクトと緊急度で整理する、②かかるリソース(コスト)を見極める、の順番になります。順を追ってみていきましょう。
① インパクトと緊急度で整理する
まず、タスクを「インパクト」と「緊急度」の二軸で整理します。よくこれを4象限で表すのですが、これは「時間管理マトリックス」と呼ばれます。それぞれの象限は下記のような意味を持ちます。
第1領域(高インパクト × 緊急):最優先で対応する領域
第2領域(高インパクト × 非緊急):将来を変えるので意識的に時間を確保すべき領域
第3領域(低インパクト × 緊急):効率化を検討
第4領域(低インパクト × 非緊急):基本的に後回し
多くの人は緊急度が高く、高いインパクトがある第1領域のタスクを最優先に取り組み、次に緊急度が高く、低いインパクトの第3領域のタスクに取り組んでしまいがちです。しかし、本来は第1領域の次に取り組むべきは第2領域で、緊急ではないが大きな成果を生むタスクです。ここのタスクに投資できるかどうかが長期的な成果の差になります。
実際の業務ではタスクリストを作って、インパクトと緊急度を3段階くらいで判断すると良いでしょう。
② かかるリソース(コスト)を見極める
次に「かかるリソース(コスト)」を評価します。ここでいうリソースは日々のタスクレベルでは、主に労力やかかる時間と考えて良いと思います。同じインパクトなら、かかるリソースが小さいタスクから取り組む方が効率的です。かかるリソースが大きなものは「小さく始められないか」を検討するのも有効です。
優先度付けの際の留意点
上記のような優先度付けは非常にシンプルな2ステップで行います。しかし、その際に留意すべき点がいくつかあります。ここでは私がよく意識する内容を9つほどご紹介したいと思います。
ポイント①:「重要度」ではなく「インパクト」で考える
タスクを「重要度」で考えると、「これは上司にとって大事だからなあ」とか「自分は重要と思うから」というふうに「〇〇にとって重要」という人ベースの考えになってしまいがちです。この人ベースの考え方ももちろん大事なのですが、まずは会社全体、部署全体にとってこの業務がどれくらいの「インパクト」を与えるかを考えることが大事です。
ポイント②:人から頼まれたタスクは自分なりに優先度を考えてみる
上司や同僚から頼まれたタスクはついインパクトと緊急度を考えず、納期までに何が何でも仕上げようとしてしまいます。もちろん納期を守ることは重要なのですが、一方で、依頼された時点でそのタスクのインパクトと緊急度を自分なりに考えてみることをおすすめします。
例えば、同僚から「来月の社内報用の記事を1週間以内に作成してほしい」と依頼された場合、社内報の最終締切まで余裕があり、内容が定期的な部署の紹介のようなものなら、緊急度・インパクトともに高くはないかもしれません。この場合は「業務が立て込んでいるから2週間以内でも良いかな」と相談してみても良いかもしれません。
また、人からの依頼では「権威バイアス」が働きやすい点にも注意が必要です。顧客や上司など立場が強い人から依頼された瞬間に、「これは絶対に最優先だ」と錯覚してしまうのです。しかし、実際には本人に確認すると「今週中でいい」「骨子レベルで十分」といったケースも少なくありません。
他者からの依頼を受けたらすぐに相手に「目的」「完了基準」「期限」を確認することをおすすめします。人からの依頼こそ盲目的に取り組むのではなく、自分の中で一度「インパクト×緊急度」で評価し直し、適切にリソースを配分することが、優先度付けの精度を高める上で大切な一歩になります。
ポイント③:インパクトはできるだけ客観的に判断する
タスクのインパクトを判断する上では自身の経験や役割が邪魔をする場合があります。例えば、メンバークラスですと日々目の前の業務をこなすことに手一杯なため、長期的にインパクトが大きいタスクより、短期的にインパクトが大きいタスクを優先してしまう傾向があります。これを現在志向バイアスと言います。
このように人がインパクトを評価する際には様々な「バイアス」が働きがちです。タスクのインパクトを評価する際に陥りがちなバイアスの例をリストアップしましたので、ぜひこのようなバイアスを意識するようにしましょう。また、個人的な観点ではなく、できるだけチーム全体、組織全体の観点からどのようなインパクトが望ましいのかという視点を常に持つようにしましょう。
バイアスのリスト
・現在志向バイアス(長期的に大きなインパクトを持つタスクより、短期的に成果が見えるタスクを優先してしまう)
・感情バイアス(好きな分野や得意な領域のタスクを「価値が高い」と思い込み、苦手な領域の重要性を軽視する。)
・サンクコスト効果(すでに時間や労力を投じたタスクを「インパクトがある」と過大評価する)
・リスク回避バイアス(失敗する可能性のある高インパクトタスクを避け、安全なタスクの影響を過大評価してしまう)
・同調バイアス(上司やチームが重視しているタスクを「インパクトが大きい」と錯覚してしまう)
ポイント④:インパクトはフローよりストックを重視する
タスクのインパクトを考えるときに意識したいのが、フロー型のインパクトとストック型のインパクトの違いです。
フロー型のインパクト:一時的に成果を生むものです。例:その日の会議準備、単発の顧客対応、営業メールの送信など。やった瞬間には効果がありますが、その後に積み上がる資産は少ない。
ストック型のインパクト:長期的に積み上がり続けるものです。例:提案資料のテンプレート化、顧客向けFAQの整備、研修コンテンツの標準化、採用広報の仕組みづくりなど。一度つくると繰り返し活用でき、将来の業務負荷を減らしたり、新たな機会を生んだりします。
日常業務ではどうしてもフロー型に引っ張られがちです。なぜならフロー型は「すぐ成果が見える」からです。しかし、短期的な成果ばかり追い続けると、将来に向けた資産が積み上がらず、毎回同じ対応を繰り返すことになり、結果として忙しさから抜け出せません。
優先度付けを考える際には、「このタスクは一度きりで終わるのか、それとも将来に積み上がる資産になるのか」という視点を必ず持ち、ストック型タスクをより優先して取り組みましょう。
ポイント⑤:自身のタスクだけではなく全体タスクの中でインパクトや緊急度を考える
自身のタスクはついつい単体でインパクトと緊急度を判断してしまいがちですが、他のタスクも含めた全体の中での位置づけや他者のタスクとの関連性に注意することが必要です。その上で「自分のタスクが全体の進捗のボトルネックになりうる場合」は、インパクトが相対的に大きくなるため前倒しで着手すべきです。
例えば、顧客への提案書の作成は、自分のアウトプットが遅れると上司レビューが遅れ、最終的に提案品質の低下になってしまう可能性があります。自身のタスクが誰のタスクにつながり、最終的にどんな成果物になるのかという全体像を頭に描いた上でインパクトや緊急度を考えることが大変重要になります。
ポイント⑥:まずインパクトと緊急度を考えて次にかかるリソース(コスト)で考える
日々の業務の中では、タスクについて、ついつい自身のリソース、つまり労力がどれくらいかかるかをまず考えがちです。しかし、そうすると労力のかかる、インパクトの大きい業務が後回しになりがちです。まずはインパクト×緊急度で判断してから、かかるリソースを見ることにより、インパクトの大きなタスクを後回しにすることを避けることができます。
ポイント⑦:リソースは心理的負担も考慮する
タスクの中には、労力や時間というリソース負荷よりも「精神的に気が重い」という精神的リソース負荷のために後回しにしてしまうものがあります。例えば、顧客へのクレーム対応、部下へのフィードバックなどです。こうしたタスクは後ろに残すほどストレスが増え、他の仕事の効率も落とします。優先度付けにおいては「早めに片づけることで精神的リソースを回復できる」という効果も考慮すべきです。
ポイント⑧:事務的な依頼を後回しにしない
ポイント②の「頼まれたタスクは自分なりに優先度を考えてみる」のところと一見矛盾するように感じるかもしれませんが、管理系の部門から依頼される事務的なタスク(年末調整の書類提出、経費精算、社会保険関連の手続き、アンケート調査など)にはできるだけすぐに対応するようにしましょう。
これらは組織や部署への「正のインパクト」という面では確かに大きなものではないかもしれませんが、提出が遅れると、管理部門に多大な迷惑(負のインパクト)をかけてしまうものです。このように負のインパクトが大きいものについては、できるだけ早く対応することをおすすめします。日々の事務的な依頼にルーズな人ほど、業務設計が甘く、タスクのインパクトを考えていない方が多いように感じます。
ポイント⑨:困った時は相談する
ここまで優先度付けのステップや留意点を説明してきましたが、特に依頼されたタスクについては、やはり自分だけでは判断できないことも多いと思います。そういう時はシンプルに依頼者に相談してみることをおすすめします。結局、インパクトや緊急度はタスクの依頼者の方がより情報を持っていることが多いですので、相談してみると意外とシンプルに優先度を決められることも多いかと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。タスクの優先度付けについては、皆さん日々取り組んでいることですので、「自分もやっている」と感じるコツもあったかもしれません。優先度をつけるという行為は、自身の経験や役割から判断するのではなく、より高い視座から客観的に判断することを求められます。
そういう意味では優先度付けはリーダーシップの一つの重要要素のように感じます。ぜひ自身のリーダーシップを磨く意味でも、より長期的、高い視座から目の前にある業務が組織全体にどのようなインパクトをもたらすかを考えていただけると良いかと思います。
松上 純一郎
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。


