みなさんは「ロジカルなヒアリング」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。「整理された質問が飛んでくる」、「理路整然と話が進む」、「抜け漏れなく確認される」、そのような印象をお持ちの方も多いのではないかと思います。
もちろんそれも一つの側面ですが、私が考えるロジカルヒアリングはもう少しシンプルです。本日はロジカルヒアリングの中の一つのテクニックを上司と部下間のコミュニケーションに活かすコツを書いてみたいと思います。それは、相手の話を「背景 → 目的 → 課題 → 解決策」の順番で整理すること、そして、不足している部分を丁寧に深掘りすることです。
なぜ、上司の部下への指示は伝わらないのか?
皆さんはこんな経験はないでしょうか。上司の立場では「なぜ部下は、指示したことと全然違うアウトプットを出してくるのだろう…」、部下の立場では「上司の指示どおりにやったのに、なぜダメ出しされるのだろう…」このすれ違いの原因はいくつかありますが、その大きな要因の一つが「背景」「目的」「課題」が共有されていないことなのです。
上司は、すでに部下への指示内容について自分の中で「背景」「目的」「課題」を理解していることが多く、そのため、部下に指示を出すときには、「解決策」だけを伝えてしまうことが多くなりがちです。資料作成を依頼するケースを想定して見ていきましょう。
上司からはこんな指示が出たとします。「この製品のターゲット顧客と、そのベネフィットを整理したスライドを作ってほしい」。あなたはその通りに、「ターゲット顧客Aの概要」、そして「その顧客に対する製品Aの効果」を整理したスライドを作成しました。
しかし、上司から返ってきた言葉はこうです。「もっと具体的に、ターゲット顧客の生活スタイルを書いてほしい。その生活がどう変わるのかを描いてほしいんだ」。あなたは「え?言われた通りにやったのに…」と戸惑います。
実は共有されていなかった“背景”
実はこの指示の裏には、こんな背景がありました。
•上司は部長から「この商品は本当に売れるのか?」と懸念を伝えられていた
•上司が予算承認するためには、具体的な顧客の生活スタイルとその変化のストーリーが必要
この背景があったから、ターゲット顧客の生活スタイルまで踏み込んでほしかったのです。この背景が事前に共有されていれば、アウトプットはまったく違ったはずです。しかし、上司側の、共有時間が足りない、部長からの長い説明を咀嚼しきれていない、自分の中でも目的がモヤモヤしている、という状況の中で、「ターゲット顧客と製品Aの効果」のスライドを作るという解決策だけが指示として伝わってしまったのです。
ロジカルヒアリングは「上司を助けるスキル」
もちろん上司の指示のスタイルが変わってくれればいいのですが、上司が自ら変わってくれるとも限りません。私はここで重要なのが、部下側のロジカルヒアリングだと考えています。例えば、部下側からはこう問いかけることができます。「このスライドの目的は何ですか?」、「どんな背景がありますか?」、「何を解決するための資料ですか?」、「誰を説得するための資料ですか?」
こうした問いは、上司を詰めるためのものではなく、前提を整理するためのものでもあり、上司の頭の中を整理するための問いでもあります。実は上司自身も背景や課題を言語化しきれていないことが多いので、これらの問いを行うことで、上司自身が思考を整理する支援にもなるのです。もちろん、いきなりたくさん質問すると上司も戸惑ってしまうので、色々な質問をする前に「○○さんの意図と異なった資料を作ると、余分なお手を煩わせてしまうことになるので、いくつか確認させていただいてもよろしいですか?」という枕詞をつけてから、確認に入るとよりよいでしょう。
解決策が曖昧なケースもある
背景、目的、課題が曖昧な状態もそうなのですが、さらによくあるのが、上司自身も解決策に確信がないまま指示しているケースです。「とりあえずスライドを作ってみよう」「何か案を出してみよう」という状態です。
この場合、部下側からは「背景・目的・課題を整理する」→「解決策が適切かを一緒に考える」というアプローチが有効です。これにより部下は単なる上司からの指示待ちの立場ではなく、上司の共創型のパートナーになることができます。
ロジカルヒアリングは報告にも有効
ロジカルヒアリングは、部下から上司への報告の場面でも有効です。例えば、セミナー会場を選定したケースを考えてみましょう。単に「A会場に決まりました」と報告するのではなく、その選定の「背景(参加人数・予算・アクセス条件)」、「目的(参加者満足度向上)」。「課題(駅近・コスト制約)」、「解決策(A会場が最適)」まで説明できれば、上司は間違いなく安心するでしょう。
英語で「We are on the same page.」という表現があることをご存じでしょうか。直訳すると「同じページにいる」ですが、「前提が揃っている」「認識が一致している」という意味です。ビジネスの多くのミスコミュニケーションは、「前提が揃っていないまま進んでいること」から起こります。だからこそ、「背景」、「目的」、「課題」を明らかにすることで、「we are on the same page」の状態になることが重要なのです。
最近は生成AIの活用が広がっていますが、「背景が曖昧」、「目的が不明確」、「解決したい課題が整理されていない」、状態でプロンプトを書いても、良いアウトプットは出ません。これは上司とのコミュニケーションとまったく同じ構造です。
まとめ:ロジカルヒアリングは組織の生産性を上げる
今回は相手の話を「背景 → 目的 → 課題 → 解決策」で整理し、不足を埋めることで、「上司部下間の生産性を上げる技術」をご紹介しました。
日々の指示や報告の中で、ぜひ自分自身や相手に一度問いかけてみてください。
•これは何のための仕事なのか?
•どんな背景があるのか?
•何を解決したいのか?
この一手間が、ボタンの掛け違いを減らし、仕事の効率と質を大きく高めてくれるはずです。
ルバートでは、ロジカルヒアリング研修でロジカルな問いかけの手法を実践的にトレーニングしています。ご関心のある方はぜひお問い合わせください。
松上 純一郎
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。