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何も決まっていないからこそ、打ち合わせを入れる――中長期の仕事を前に進める技術

中長期の仕事を前に進める技術|何も決まっていないからこそ打ち合わせを入れる

ルバート代表の松上です。前回は「手を抜く技術」をテーマに、限られた時間の中で、仕事にどの程度の労力をかけるべきかについて書きました。今回は、それとも関連する「中長期の仕事の進め方」について書いてみたいと思います。

本記事の執筆者
松上 純一郎マツガミ ジュンイチロウ
  • 株式会社Rubato代表取締役
  • 『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』
    『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』著者

私たちは仕事をしていると、どうしても目の前の仕事に時間を使ってしまいます。今日中に返信しなければならないメール、明日のお客様との打ち合わせの準備、今週中に提出しなければならない資料など、日々さまざまな仕事が発生します。

一方で、「半年かけて業務を効率化する」、「来期に向けて新しい仕組みをつくる」、「部署の会議のあり方を見直す」、「マニュアルを整備する」、といった中長期の取り組みもあります。

こうした仕事も重要であることは、誰もが分かっています。しかし、気づけば後回しになっていた、という経験がある方も多いのではないでしょうか。私はこれまでコンサルタントとして、さまざまな企業の中期経営計画の策定や、その後の実行を支援してきました。その中でも本当によく見てきたのが、中長期的な取り組みが日々の業務に負けて、どんどん後回しになっていくという現象です。

かく言う私自身も同じことに陥りがちです。書籍の執筆、生成AIの活用、人材育成、人材採用など本当は中長期的にはやるべきことがたくさんあるのに、どうしても短期的なことに時間を使ってしまいがちです。

では、どうすれば中長期の取り組みを前に進めることができるのでしょうか。しっかりと計画を作るというのはもちろん大事です。しかし計画を作って実行するということにはかなりの力が必要になります。長年私が試行錯誤してきた中で、私が比較的労力がかからずおすすめしているのが、非常にシンプルな方法です。それは何も決まっていない段階で、先に打ち合わせを入れてしまうことです。

 

1.私たちは短期的な仕事を頑張ってしまう

そもそも、なぜ中長期の取り組みは後回しになるのでしょうか。私は、これはある意味で人間にとって自然なことだと思っています。短期的な仕事には、私たちを動かすさまざまな「強制力」があります。「明日までに提出しなければならない」、「金曜日にお客様との打ち合わせがある」、「来週、上司に報告しなければならない」、こうした締切や他者との約束があれば、多少忙しくても何とか時間をつくって仕事を進めます。

一方、「半年後までに業務を改善する」、「今年度中に新しい仕組みを考える」という仕事には、そのような強制力があまりありません。今日やらなくても、明日困るわけではありません。今週やらなくても、お客様から怒られるわけでもありません。

そのため、短期的な仕事が忙しくなるたびに、「これは来週やろう」「少し落ち着いてから考えよう」と後回しになっていきます。つまり、中長期の仕事が進まないのは、必ずしも意志が弱いからではありません。短期業務には締切、会議、顧客などの強制力がある一方、中長期業務にはそれがないからです。

であれば、人間の性質を変えようとする必要はありません。私はむしろ、私たちは短期的な仕事を頑張ってしまう生き物なのだから、中長期の仕事もすべて短期的な仕事にしてしまえばいいと考えています。


2.目の前の仕事だけを頑張ると、ずっと忙しい

もちろん、目の前の仕事をしっかり行うことは重要です。ただし、自分の時間の100%を目の前の仕事に使ってしまうと、困ったことが起きます。例えば、毎月同じ集計作業に5時間かかっているとします。仕組みを見直したり、IT化したりすれば、将来的には1時間で終わるかもしれません。しかし、その仕組みをつくるためには、最初に10時間、20時間という時間を使わなければなりません。

目の前の業務だけを考えれば、「そんな時間があるなら今月の集計を終わらせよう」となります。その結果、翌月も5時間、その翌月も5時間と、同じ仕事を繰り返し続けることになります。マニュアル化、標準化、IT化、人材育成、業務改善なども同じです。どれも短期的には時間がかかります。しかし、中長期的には自分や組織を楽にしてくれます。

言い換えると、中長期の仕事とは「未来の自分を楽にするための仕事」でもあるのです。
だからこそ、目の前の仕事をすべて100点に仕上げようとするのではなく、仕事によっては70点、80点で仕上げ、その分の時間を中長期の取り組みに振り向ける必要があります。特に、その場限りで終わる仕事に必要以上の時間をかける「オーバークオリティ」には注意が必要です。

3.中長期の仕事を「短期の仕事」に変える

では、中長期の仕事を短期の仕事にするには、どうすればよいのでしょうか。そのために有効なのが、先に打ち合わせを設定することです。例えば、「半年間で部署の会議を効率化する」という取り組みを任されたとします。

「半年後までに会議を効率化する」とだけ決まっていると、非常に曖昧です。何から手をつけるのかも分かりませんし、今日何かをやらなくても特に問題はありません。そこで、まず1か月後に課長との打ち合わせを設定します。さらに、その前に一緒に取り組むメンバーとの打ち合わせを2週間後に設定します。すると、「半年後までに会議を効率化する」
という中長期の仕事が、「2週間後までに、現在行われている会議を一覧化する」、「1か月後までに、問題点と改善の方向性を課長に説明する」という短期の仕事に変わります。

半年先にあった曖昧な仕事が、急に自分の目の前にやってくるのです。私はこれを、未来の仕事を目の前の仕事に変えることだと思っています。


4.打ち合わせは「物事を前に進めるための装置」

ここで重要なのが、打ち合わせに対する考え方です。多くの人は、「もう少し考えがまとまってから上司と話そう」、「ある程度資料ができてから打ち合わせを設定しよう」と考えます。もちろん、報告のための打ち合わせであればそれでもよいと思います。

しかし、中長期の取り組みでは、この考え方が仕事を遅らせることがあります。私はむしろ逆だと思っています。何かができたから打ち合わせを入れるのではなく、何かをつくるために打ち合わせを入れる。つまり、打ち合わせは単なる報告や情報共有の場ではなく、物事を前に進めるための装置として使うのです。

特に今回お伝えしたいのが、「何も決まっていないから打ち合わせを入れない」のではなく、「何も決まっていないからこそ打ち合わせを入れる」という考え方です。まだ何も決まっていない。何を調べればよいかも分からない。どこから手をつければよいかも分からない。だからこそ、2週間後に一度打ち合わせを入れてみる。打ち合わせが入ると、「さすがに手ぶらでは行けないな」と思います。そこで現状を少し調べてみたり、論点を書き出してみたり、簡単なたたき台をつくったりします。それだけでも、仕事は確実に前に進み始めます。

5.「30%で見せます」と先に宣言する

とはいえ、何も決まっていない段階で上司との打ち合わせを設定することに抵抗を感じる方もいると思います。「打ち合わせを入れた以上、それまでにちゃんとした資料をつくらなければならない」と思ってしまうからです。そこでおすすめしたいのが、打ち合わせを設定する際に、「まず30%くらいのたたき台を持ってきます」と宣言してしまうことです。

例えば、「まず2週間後に一度お時間をいただけませんか。完成版ではなく、30%くらいの段階で方向性を確認させてください」と上司に伝えます。私は、このように言われて「100%完成するまで持ってこないでほしい」という上司は、それほど多くないと思います。

むしろ上司の立場からすると、100%つくり込んだ後で「そもそも方向性が違う」となる方が困ります。30%の段階であれば、「そこではなく、こちらを調べた方がいい」、「この人にも話を聞いた方がいい」、「その方向であれば進めてよい」、と早い段階で軌道修正できます。

30%で一度見せる。次の打ち合わせで50%にする。さらにレビューを受けて80%にする。このように、打ち合わせを重ねながら成果物を育てていく方が、中長期の取り組みではむしろ効率的です。

6.「自分の首を締めるのが怖い」という心理

打ち合わせを先に設定することに抵抗を感じるもう一つの理由が、「ただでさえ忙しいのに、打ち合わせを入れたら、それまでに何かやらなければならなくなる」というものです。確かにその通りです。打ち合わせを入れれば、自分で自分に締切をつくることになります。ある意味、自分で自分の首を締めているとも言えます。

しかし、そもそも半年以内にやることが決まっているのであれば、いつかはやらなければなりません。しかも中長期の仕事は、後半に行けば行くほど苦しくなります。最初の4か月ほとんど手をつけず、残り2か月で一気に進めようとすれば、当然負荷も高まりますし、十分な検討もできません。

そう考えると、未来の自分の首を締めることを回避するために、最初に打ち合わせを入れてしまうという考え方もできると思います。少しずつ前倒しで進める方が、結果として自分自身も楽になります。

7.「忙しい上司の時間を押さえてよいのか」

もう一つ、よくある心理的抵抗が、「まだ何もない段階で、忙しい上司の時間を押さえてよいのだろうか」というものです。これについては、私自身が上司や経営者の立場になってみて感じることがあります。

私はむしろ、中長期の取り組みであれば、先に予定を押さえてもらった方がありがたいと思っています。後から突然、「来週1時間ください」と言われる方が、他の予定との調整が難しくなります。また、1時間の予定を入れていて、実際には30分で終わったとしても、上司からすれば30分時間が戻ってくるので、それほど困ることではありません。

場合によっては、「今回はあまり進んでいないので、打ち合わせを来月にしましょう」とキャンセルになっても構いません。大切なのは、中長期の仕事が自然消滅しないよう、定期的に前に進めるきっかけをつくっておくことです。

8.中長期の仕事が決まったら、まず予定を入れる

ここまでの内容を実際の仕事に落とすと、やることはそれほど複雑ではありません。中長期の取り組みが決まったら、まず次のような予定を入れてみてください。

① 最初のキックオフを設定する
② 上司やプロジェクトオーナーとの定期的なレビューを設定する
③ 複数人で行う場合は、チームの定例を設定する
④ 次回の打ち合わせまでに見せる成果物を決める
⑤ 「まず30%で見せます」と関係者に伝える

特に重要なのはキックオフです。何も決まっていない段階だからこそ、まず1時間でも打ち合わせを設定する。そこで目的や進め方を話し、次回までに何をするかを決めます。そうすると、その後の仕事が一気に具体的になります。

まとめ

いかがだったでしょうか。私たちはつい、「中長期の仕事にも時間を使わなければ」と考えます。もちろん、それ自体は間違っていません。ただ、目の前に締切があり、お客様が待っていて、明日の会議の準備もしなければならない中で、「中長期のことも意識しよう」と思うだけでは、なかなかうまくいきません。

私は、そこでは無理に人間の性質に逆らわなくてもよいと思っています。私たちは短期的な仕事を頑張ってしまう生き物です。であれば、中長期の仕事も短期的な仕事にしてしまえばいいのです。半年後の仕事を、1か月後の打ち合わせにする。1か月後の打ち合わせを、2週間後に見せる成果物にする。そして30%の段階から、人に見せながら少しずつ前に進めていく。

そのために有効なのが、先に打ち合わせを設定することです。何も決まっていないから、もう少し考えてから打ち合わせを入れるのではありません。何も決まっていないからこそ、まず打ち合わせを入れる。打ち合わせを「物事を前に進めるための装置」として使う。

ぜひ次に中長期の仕事を任されたときには、何から始めるかを考える前に、まず一つ、打ち合わせをカレンダーに入れてみてください。

 

【本記事の執筆者】
松上 純一郎

同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。