ただ、仕事の成果というのは、必ずしもかけた時間に比例するわけではありません。
むしろ大事なのは、限られた時間の中で、どこに、どれくらいの労力をかけるのかを考えることです。以前、タスクの優先度についてブログを書きました。そのときは、「どの仕事にどれくらいのリソースを配分するか」という話をしました。
今回はもう少し一つひとつの仕事に目を向けて、「その仕事に、どこまで時間をかけるべきなのか」について、自分が普段考えていることを言語化してみたいと思います。言い換えると、今回のテーマは「手を抜く技術」です。
もちろん、いい加減に仕事をすることを勧めたいわけではありません。むしろ、オーバークオリティを防ぎ、限られた時間で成果を最大化するための仕事の仕方について考えてみたいと思います。
コンサルタントが「30分で作りました」と言いたがる理由
私は新卒でコンサルティング会社に入りましたが、コンサルティングの世界では、
「この30分で作った資料でお客様に納得していただいたんですよ」というのは、ちょっとした自慢話になります。
一方で、「5時間かけて作った資料でお客様に納得いただきました」と言っても、あまり褒められません。むしろ、「なぜそんなに時間がかかったのだろう」と思われることすらあります。これは、手を抜くことが良いとされているわけではありません。同じ成果であれば、より短い時間で出したほうが価値が高いという考え方が共有されているからです。
コンサルティング業界では、同じ目的を達成するために、30分で作った70点の資料で達成できるのであれば、5時間で作った100点の資料で達成するより、好ましいと考えます。達成する成果が同じであれば、当然30分で作ったAさんの方が、残りの4時間30分を別の仕事に使うことができます。仕事では、時間は最も限られた資源の一つです。そう考えると、「良いものを作る」という視点だけではなく、「どれくらいの時間で良いものを作ったか」まで含めて仕事の成果を考えることが重要になります。
手のかけすぎは、手抜きと同じくらい問題である
「100%を目指さない」と聞くと、いい加減な仕事を勧めているように感じる方もいるかもしれません。もちろん、そういう意味ではありません。ここで大事なのは、費用対効果を考えることです。
多くの仕事は、最初の70点くらいまでは比較的短い時間で到達できます。しかし、そこから80点、90点、100点へと引き上げようとすると、それまでの時間以上の時間がかかります。例えば、資料の内容を整理して70点まで持っていくのに2時間かかったとします。
そこから細かな表現を直し、デザインを整え、想定される質問をさらに調べ、80点から90点に持っていくために、さらに2時間かかることもあります。
もちろん、その10点、20点が重要な場面もあります。経営会議に提出する資料や、重要なお客様への最終提案などであれば、そこに2時間をかける価値があるかもしれません。
一方で、上司と方向性を確認するための社内資料であれば、そこまで作り込む必要はないでしょう。つまり、重要なのは常に100点を目指すことではなく、「この仕事では何点まで持っていくべきなのか」を考えることなのです。
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。一つの仕事に追加で使った時間は、必ずどこかから持ってきている、ということです。目の前の資料を80点から95点にするために3時間使えば、その3時間は、別の仕事には使えません。目の前の一枚の資料を95点にした裏側で、本来重要だった別の仕事が60点になっているかもしれません。
そう考えると、手をかけすぎることは、ある意味では手を抜くことと同じくらい問題なのです。
「終わりのない仕事」ほど、オーバークオリティは起きやすい
特にオーバークオリティが起きやすいのが、提案、企画、リサーチ、資料作成などの仕事です。なぜなら、これらの仕事には明確な終わりがないからです。
例えば、
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• 提案書であれば、もう一つ代替案を考えることができる
• 企画であれば、もう少し情報を集めてから固めることができる
• リサーチであれば、あと一社、あと一本、追加で調べることができる
• 資料であれば、表現やデザインをさらにブラッシュアップできる
やろうと思えば、いくらでもやれてしまいます。
しかも厄介なのは、やればやるほど、実際に少しずつ良くなることです。
そのため、「もう少しやれば良くなる」と考えているうちに、どんどん時間を使ってしまいます。逆に、データ入力や決められた手続きのように「ここまでやれば終わり」が明確な仕事では、この問題は比較的起きにくいと思います。
つまりオーバークオリティは、単に本人が真面目すぎるから起きるのではありません。
「どこまでやれば終わりなのか」が曖昧な仕事ほど、自分で終了条件を設定しなければならないという仕事の性質から生まれる問題でもあるのです。
なぜオーバークオリティは起きるのか
では、なぜ必要以上に仕事に時間をかけてしまうのでしょうか。私は、大きく二つの原因があると思っています。
①頼む側と頼まれる側で「完成イメージ」が違う
一つ目は、仕事を頼む側と頼まれる側で、求めているクオリティと時間のイメージが違うことです。例えば上司は、「ちょっと競合について調べておいて」というつもりで依頼したとします。上司の頭の中では、「Webで主要3社を30分くらい調べて、箇条書きで教えてもらえれば十分」というイメージかもしれません。
ところが部下は、「競合分析をしっかりやらなければ」と考えて、10社を調べ、比較表を作り、PowerPointにまとめて半日かけてしまう。どちらも悪気はありません。単純に、「調べておいて」という言葉からイメージしている完成形が違うのです。そして厄介なのは、このズレは成果物が出てくるまで、お互いに気づきにくいということです。
②「足りない」と言われることへの不安
もう一つは、仕事をする本人の不安です。「手を抜いたと思われたらどうしよう」、「これでは足りないと言われるかもしれない」、「ちゃんとやっていないと思われたくない」、こうした不安があると、人はどうしても「少し多めにやっておこう」という方向に振れます。
特に、若手の方や、異動して間もない方、新しい上司のもとで働き始めた方など、相手の期待値がまだ読めない状況では、この傾向は強くなると思います。真面目で責任感が強い人ほど、こうした不安から必要以上に作り込んでしまうこともあります。
そう考えると、オーバークオリティは本人の能力や仕事に対する姿勢だけの問題ではありません。「相手がどこまで求めているのか」が共有されていないという、コミュニケーションの問題でもあるのです。
着手する前に、四つのことを確認する
では、どうすればオーバークオリティを防げるのでしょうか。一番シンプルなのは、仕事を始める前に、相手の期待値を確認することです。私は、次の四つを確認すると良いと思っています。
①かける時間を確認する
「これは、どのくらいの時間をかけるイメージでしょうか」
時間を直接聞いてしまう方法です。例えば「1時間くらいでいいよ」と言われれば、1時間でできる範囲を考えることができます。
②作成する量やフォーマットを確認する
「スライド3枚くらいのイメージでしょうか。それともメールに箇条書きで十分でしょうか」
成果物の量や形式が決まると、必要な作業量もかなり明確になります。
③ 過去の事例で確認する
「以前の〇〇社向けの資料と同じくらいのイメージでしょうか」
私が特に有効だと思うのが、この方法です。「ざっくり」「しっかり」「ある程度丁寧に」といった言葉は、人によって意味がかなり違います。一方で、実際の成果物を一つ見せて、
「このくらいですか?」と聞けば、かなり正確に期待値を合わせることができます。
④選択肢を示す
「簡易版であれば半日、しっかり作るなら2日くらいかかりますが、どちらにしましょうか」
選択肢を提示する方法です。「どのくらいやればよいですか」と聞かれると、頼んだ側も意外と答えにくいものです。しかし、「Aなら半日、Bなら2日」と言われれば、判断はかなりしやすくなります。
ただ、頼んだ側も完成イメージを持っていない
ここまで読むと、「最初に確認すればよいのか」と思われるかもしれません。ただ、実務ではもう一段難しい問題があります。仕事を頼んだ側も、何が必要なのか分かっていないことが結構あるのです。
例えば、「新規事業についてちょっと調べておいて」と依頼した時点では、上司自身も、どんな情報が出てくるのか分かっていません。その状態で、「どのくらいの品質にしますか?」と聞かれても、答えようがありません。
こういう仕事で重要になるのが、早い段階で一度見せることです。完成してから見せるのではなく、2割、3割くらいできたところで、「今、こういう方向で進めていますが、イメージは合っていますか」「この粒度で残りも調べれば十分でしょうか」と確認します。これには二つのメリットがあります。
一つは、方向性が違っていた場合の手戻りを減らせることです。もう一つは、実際のものを見ることで、頼んだ側も初めて自分の求めているものが分かることです。白紙の状態で「何が欲しいですか」と聞かれても、人はなかなか答えられません。しかし、何かが目の前に出てくれば、「いや、ここまではいらない」「もう少しここを深掘りしてほしい」と判断できるようになります。
そういう意味では、途中段階の共有は単なる進捗報告ではありません。相手自身もまだ言語化できていない期待値を、一緒に具体化していく作業なのだと思います。
社外では「どこまでやるか」の判断はさらに難しい
ここまでは主に社内の仕事を想定してきました。では、お客様に対してはどうでしょうか。社内であれば、「どのくらいまで作ればいいですか?」と比較的率直に聞くことができます。しかし、お客様に対して、「どのくらいの品質でよいですか?」とは、なかなか聞きづらいと思います。私はこの場合、相手との関係性によって考え方を変えるのが良いと思っています。
初めてのお客様であれば、ある程度気合を入れて作る。まだ関係性がなく、こちらの仕事の品質も分かってもらえていない段階では、成果物そのものが信頼につながります。ここで少しオーバークオリティになったとしても、それは将来の関係性をつくるための「投資」と考えることができます。
一方で、ある程度関係性ができているお客様であれば、率直に確認してみるのもよいと思います。「今回は、まず箇条書きのメモレベルで共有する形でもよいでしょうか」、「まず方向性だけご相談して、その後必要に応じて作り込む形でもよいでしょうか」、といった聞き方です。信頼関係ができていれば、これは必ずしも「手を抜こうとしている」とは受け取られません。
むしろ、お客様にとっても、必要以上に作り込んだために時間がかかったり、コストが上がったりすることが良いとは限りません。相手にとって必要なところに必要な労力をかけること自体が、プロフェッショナルな仕事なのだと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
「手を抜く技術」という少し刺激的なタイトルをつけましたが、今回お伝えしたかったのは、決していい加減に仕事をすることではありません。むしろ逆で、限られた時間を、本当に成果につながるところに使うための技術です。100%を目指さないことは、妥協ではありません。
「ここは80点で十分。その代わり、こちらには時間をかける」と意識的に決めることは、一つの意思決定だと思います。そして、その判断を自分一人で抱え込まないことも重要です。頼んだ人と最初に期待値を合わせる。分からなければ、途中で見せる。相手自身も分かっていなければ、一緒に完成イメージを作っていく。
こうした小さなコミュニケーションによって、オーバークオリティの多くは防ぐことができます。仕事ができる人というと、「どんな仕事でも高い品質で仕上げる人」をイメージするかもしれません。しかし私は、「どの仕事に、どこまで力をかけるべきかを判断できる人」も、仕事ができる人の大事な要素ではないかと思っています。
いい意味で楽をして、リターンを最大化する。それは決して不真面目なことではなく、限られた時間で継続的に成果を出していくための、プロフェッショナルの技術なのだと思います。
松上 純一郎
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。


