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なぜうまく仕事を任せられないのか──マネージャーが成果を出しながら部下を育てる方法

なぜうまく仕事を任せられないのかをテーマに、マネージャーが仕事を分解して部下へ段階的に任せる方法を説明するバナー

こんにちは。Rubato代表の松上です。マネージャー層に対する研修を行っていると、よく出てくる悩みがあります。

「部下に仕事を任せた方がよいことは分かっていますが、うまく任せられないんです。」

仕事を任せようとしても、どこまで任せればよいのか分からない。細かく指示しすぎると、部下の主体性を奪ってしまう気がする。一方で、任せすぎると、品質が下がったり、納期に間に合わなかったりする不安がある。

本記事の執筆者
松上 純一郎マツガミ ジュンイチロウ
  • 株式会社Rubato代表取締役
  • 『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』
    『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』著者

結果として、部下に仕事を渡したものの途中で引き取ってしまったり、最初から自分で抱え込んでしまったりしてしまう…。これは、本人の意識が低いからではないと思います。

多くのマネージャーは、部下を育てることの重要性を理解しています。仕事を任せなければ、部下に経験が蓄積されないことも分かっています。それでも、日々の業務の中では、うまく任せられない…。では、この難しさをどのように乗り越えればよいのでしょうか。

 

マネージャーが仕事を任せられない理由は一つではない

マネージャーが仕事を任せられない理由は、人によってさまざまです。例えば、次のような理由があります。

    • どこまで任せてよいか分からない
    • 任せた後の品質や納期が心配
    • 部下の能力を十分に把握できていない
    • どのように説明すればよいか分からない
    • ざっくり指示をしてもうまくいかない、一方で細かく指示をするのも負担
    • 失敗したときの対応の負荷を考えてしまう
    • 部下に負担をかけることに遠慮がある
    • 自分の仕事が減ることへの不安

このように、仕事を任せられない背景には、心理的な要因もあれば、スキル上の問題もあります。本人の問題だけではなく、人員不足や業務量の多さ、納期の厳しさなど、組織的な要因が影響していることもあります。もちろん、それぞれの理由に応じた対応策を考えることは重要です。

しかし、これまで多くのマネージャーと接してきた中で、こうした悩みに共通するテーマがあると感じています。それは、プレーヤーからマネージャーへの役割転換を、日々の業務の中で実践することの難しさです。

プレーヤーとマネージャーでは、評価される成果が変わる

プレーヤー時代は、基本的に自分自身の成果が評価されます。「どれだけ多くの仕事をこなしたか」、「どれだけ高い品質の成果物を作ったか」、「どれだけ難しい案件を担当したか」、
自分自身のアウトプットを高めることが、評価につながります。極端に言えば、「自分がいないと、この仕事は回らない」という状態は、ある意味優秀なプレーヤーの証とも言えます。

しかし、マネージャーになると、評価軸は大きく変わります。マネージャーに求められるのは、究極的には自分自身のアウトプットではありません。求められるのは、「チームとして成果を出せているか、そして、その成果を安定的、継続的に出せるチームを育てられているか」ということです。

つまり、マネージャーには、チームとしての成果を出すこと、そして、将来にわたってその成果を出せる組織能力をつくることの2つが求められているのです。

仕事を任せることは、組織能力への投資である

このように考えると、部下に仕事を任せる意味も変わってきます。仕事を任せるのは、単にマネージャー自身の仕事を減らすためではありません。それは、実は中長期的な組織能力への投資なのです。

仕事を任せる際には、最初に目的や背景を説明する必要があります。成果物のイメージや品質基準を共有し、途中で進捗を確認し、必要に応じてフィードバックすることも必要です。短期的には、マネージャー自身が担当するよりも、時間や手間がかかる場合が大半です。

しかし、その仕事を経験した部下が少しずつできるようになれば、次回は説明時間が短くなります。さらに経験を重ねれば、やがてマネージャーが細かく関わらなくても、仕事を進められるようになります。最初にかけた時間が、将来の組織能力として蓄積されていくのです。

設備投資やシステム投資も、導入したその日にすべての効果が出るわけではありません。導入時にはコストがかかり、その後の生産性向上によって回収していきます。人材育成も同じです。部下への仕事の委任は、その場の業務分担ではなく、将来の成果を生み出すための投資だと考える必要があります。

役割は分かっていても、実践するのは難しい

ここまで読むと、「そんなことは分かっている」と思われた方も多いでしょう。実際、マネージャーの多くは、部下育成や組織能力への投資が重要であることを理解しています。それでも、うまく仕事を任せられません。その背景には、目の前の業務を確実に回さなければならないというプレッシャーがあります。

今日までに提出しなければならない資料、今月達成しなければならない売上目標、失敗できない重要顧客への提案などは、部下に任せた結果、うまくいかなければ、チームの成果そのものに影響します。

そのため、マネージャーは、「どこまで任せればよいのか」、「どこから自分が関与すべきなのか」、「どの段階で進捗を確認すべきなのか」、「失敗をどこまで許容すべきなのか」という判断に迷います。この難しさは、単なる意識の問題ではありません。短期的な事業成果と、中長期的な組織成果を、同時に求められることから生まれる構造的な難しさです。

そして、マネージャーは成果か育成かを選ぶのではなく、成果を出しながら育成する方法を考えることを常に求められているのです。

「丸ごと任せる」か「全部自分で持つ」かの二択になっていないか

では、どうすれば、成果と育成を両立できるのでしょうか。ここで見直したいのが、仕事を任せる「単位」です。多くのマネージャーは、仕事を任せることを、「この案件を丸ごと任せる」、「この案件は自分で担当する」という二択で捉えています。

しかし、部下がまだ十分に育っていない段階で、重要な仕事を丸ごと任せるのはリスクが高すぎます。一方で、リスクを避けるためにすべて自分で持ってしまえば、部下には経験が蓄積されません。ここで重要なのは、「任せるか、任せないか」ではなく、仕事のどの部分を、どの単位で任せるかと考えることです。実際の仕事は、丸ごと一つの塊ではありません。いくつもの業務やタスクの組み合わせによって成り立っています。そこで重要になるのが、仕事を細かく分解することです。

仕事をタスクの分解ツリーで捉える

例えば、「顧客への提案を行う」という仕事を考えてみましょう。この仕事は、次のような業務に分解できます。

    • 顧客へのヒアリングを実施する
    • 顧客の課題を整理する
    • 提案の方向性を決める
    • 提案資料の構成を考える
    • 各ページを作成する
    • 見積もりを作成する
    • 顧客にプレゼンテーションする
    • 提案後のフォローをする

さらに、「各ページを作成する」という業務も、より細かなタスクに分けられます。

    • ページタイトルとメッセージを考える
    • 過去の資料を探す
    • 必要なデータを集める
    • スライドの中身を作成する
    • 誤字脱字を確認する

このように、大きな仕事を上位に置き、それを業務、タスクへと段階的に分解すると、ツリー状の構造になります。これを、タスクの分解ツリーと呼びます。上の階層には、「顧客への提案」のような大きな仕事があります。


中くらいの階層には、「顧客分析」「提案資料作成」「プレゼンテーション」といった業務のまとまりがあります。一番下の階層には、「データを集める」「グラフを作る」「1ページ作成する」といった、具体的で小さなタスクがあります。仕事を任せるときには、このツリーのどの階層を任せるのかを考えることが重要です。

最初は、一番下の階層の一部から任せる

部下がその仕事に慣れていない段階では、タスクの分解ツリーの一番下にある、小さく具体的なタスクの一部から任せます。
例えば、

    • 必要なデータを集めてもらう
    • 過去の類似事例を探してもらう
    • 指定した形式でグラフを作ってもらう
    • 提案資料の1ページだけ作成してもらう
    • 会議後のフォローメールのドラフトを書いてもらう

といった任せ方です。
この段階では、マネージャーが仕事全体を設計します。


仕事の目的、全体の進め方、成果物のイメージ、品質基準などは、マネージャーが握ったままです。そのうえで、一番下の階層にあるタスクの一部を切り出し、部下に経験してもらいます。これであれば、失敗したときの影響を限定できます。マネージャーも全体の品質や納期を管理しやすいため、短期成果を大きく損なわずに、育成の機会をつくることができます。「仕事を任せる」と聞くと、案件全体を渡すイメージを持ちがちです。
しかし、最初の委任は、タスクの分解ツリーの一番下にある、小さな枝を一本渡すイメージでよいのです。そして徐々にその範囲を広げていくのです。


慣れてきたら、中くらいの階層を任せる

部下が一番下の階層のタスクを安定してこなせるようになったら、次は少し大きな単位で仕事を任せます。タスクの分解ツリーで言えば、中くらいの階層にある業務のまとまりを任せるイメージです。例えば、これまでは「データを集める」「グラフを作る」という個別のタスクだけを任せていた部下に対して、次は、

    • 顧客分析を一通り担当してもらう
    • 提案資料のうち、一つの章を担当してもらう
    • 会議の準備から議事録作成まで担当してもらう
    • 顧客へのヒアリング設計と実施を担当してもらう

といった任せ方に広げていきます。


この段階になると、部下は単に指示された作業を行うだけではありません。何をどの順番で進めるのか、どこまで調べるのか、どのような成果物にまとめるのか、そうした一定の判断も求められます。

マネージャーは、細かな作業指示から少し離れ、途中のチェックポイントや成果物の品質基準を示す役割へと変わっていきます。そして最終的には、タスクの分解ツリーの上位にある、案件やプロジェクトそのものを任せられる状態を目指します。つまり、仕事の委任は、最下層のタスクの一部→ 中間階層の業務のまとまり→ 上位階層の案件全体、へと段階的に範囲を広げていくものなのです。

うまく任せるとは、任せる範囲と関与の仕方を設計すること

仕事をうまく任せられないと悩むマネージャーは、任せ方を「説明の仕方」だけの問題として捉えがちです。もちろん、目的や背景、期限、品質基準を伝えることは重要です。
しかし、それ以前に大切なのは、

    • どの階層の仕事を任せるのか
    • どこまで判断を委ねるのか
    • どのタイミングで確認するのか
    • 失敗した場合の影響をどこまで許容できるのか

を設計することです。

つまり、うまく任せるとは、単に仕事を渡すことではありません。部下の能力と仕事のリスクに合わせて、任せる範囲とマネージャーの関与の仕方を設計することなのです。部下の能力がまだ十分でなければ、仕事の単位を小さくし、確認頻度を高くする。能力が高まれば、任せる単位を大きくし、判断の自由度を広げる。このように、部下の成長に合わせて、任せ方そのものを変えていく必要があります。

任せる範囲が広がると、次の投資余力が生まれる

段階的に任せる範囲を広げていけば、部下が担当できる仕事は少しずつ増えていきます。当初はマネージャーがすべて行っていた仕事のうち、一部を部下が行えるようになります。さらに時間がたてば、中くらいの業務のまとまりを、部下が自律的に進められるようになります。その分、マネージャーの関与時間は減っていきます。そこで生まれた時間を、別の部下の育成や、より難易度の高い仕事の委任、業務の仕組み化に再投資できます。

つまり、
任せる→ 部下が経験する→ 部下が成長する→ マネージャーの関与が減る→ 新たな余裕が生まれる→ その余裕を次の育成に投資する
という好循環が生まれます。

逆に、任せ方が分からないまま仕事を抱え続けると、部下には経験がたまりません。経験がたまらないので、いつまでも大きな仕事を任せられません。任せられないため、マネージャーはさらに忙しくなります。そして、忙しいため、任せ方を考える余裕もなくなります。この悪循環から抜け出すために必要なのは、最初から大きな仕事を任せることではありません。小さなタスクを一つ切り出し、任せ方を設計することなのです。


慢性的に余裕がない組織では、育成以外の投資も考える

もちろん、現実には、現場の業務を回すだけで一年中いっぱいいっぱいという組織もあります。そのような状態では、マネージャー個人の工夫だけで解決できる範囲には限界があります。人員が足りないのかもしれません。仕事量が多すぎるのかもしれません。属人化や手戻り、過剰な会議、複雑な承認プロセスが、組織の余力を奪っている可能性もあります。

この場合には、部下育成だけでなく、「やめる業務を決める」、「業務を標準化する」「テンプレートやマニュアルを整備する」、「AIを活用する」、「外部リソースを活用する」、「会議や承認プロセスを見直す」といった、組織能力への別の投資も必要です。

育成、仕組み化、IT活用、業務削減は、別々のテーマのように見えます。しかし、いずれも「来年も同じ忙しさを繰り返さないための投資」という点では共通しています。マネージャーに求められるのは、限られた時間を、短期成果と将来の組織能力のためにどう配分するかを考えることです。

「任せること」自体が目的ではない

「仕事を任せなければならない」と考えすぎると、任せることそのものが目的になってしまうことがあります。しかし、任せること自体が目的ではありません。目的は、組織能力を高めることです。

部下の経験や成長につながらない丸投げであれば、組織能力は高まりません。反対に、案件全体はマネージャーが担っていても、その中の一部を意図的に経験させ、部下が次回は自力でできるようになれば、それは立派な育成です。重要なのは、今回の仕事を通じて、

    • 部下にどのような経験を積ませるのか
    • 次回から何を一人でできるようにするのか
    • タスクの分解ツリーのどの階層まで任せるのか

を考えることです。

おわりに

マネージャーが仕事をうまく任せられないのは、単に任せる意識が足りないからではありません。短期的な成果を守りながら、部下に経験を積ませ、将来の組織能力を高める必要があるからです。そのため、いきなり仕事を丸ごと任せる必要はありません。まずは、仕事をタスクの分解ツリーで捉えてみましょう。そして、一番下の階層にある、小さく具体的なタスクの一部から任せてみる。それができるようになったら、中くらいの階層にある業務のまとまりを任せていく。さらに成長すれば、案件全体を任せる。このように、部下の成長に合わせて、任せる階層と判断範囲を一段ずつ広げていくのです。

仕事をうまく任せるとは、単に仕事を手放すことではありません。部下の能力と業務のリスクを見ながら、任せる範囲と自分の関与の仕方を設計することです。そして、仕事を任せることは、単なる業務分担でもありません。将来にわたって成果を出せるチームをつくるための、組織能力への投資です。

「今日の成果」と「来年の成果」を、両方つくる。

それこそが、プレーヤーとは異なる、マネージャーの重要な仕事なのだと思います。

 

【本記事の執筆者】
松上 純一郎

同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。