「担当案件がうまくいっていない部下に、『あなたはどうしたい?』と聞いたら、『分かりません』で会話が止まってしまいました。」
別の方は、
「『最近どう?』とオープンクエスチョンで聞いたら、会社への愚痴が止まらなくなってしまって……。」
さらに、
「結局、時間がなくなってしまって、最後は自分がアドバイスをして終わることが多いんです。」
会場では、「コーチングコミュニケーションって難しいですね。」という声も聞こえてきました。
いずれも、「1on1で部下の成長を支援したいのに、思うように対話が深まらない」という悩みでした。
でも私は、その話を聞きながら、少し違うことを考えていました。
コーチングコミュニケーションそのものが難しいというより、もしかすると、「何について対話しているのか」、そして「どんなサイクルを回そうとしているのか」が、少しだけ噛み合っていないのかもしれない。そんなことを感じたのです。
1.管理職の方の悩みに共通していたこと
一見すると、それぞれ別の悩みに見えます。
でも、お話を聞きながら、背景には共通する構造があるように感じました。
例えば、「あなたはどうしたい?」という問い。
この問い自体は決して悪いものではありません。
部下自身に考えてほしい。自分で答えを見つけてほしい。そんな思いがあるからこその問いです。
ただ、その場で話しているテーマは「案件をどう前に進めるか」という仕事の話です。
仕事には、お客様の期待があり、納期があり、品質があります。つまり、ある程度「目指す方向」が決まっています。
だから部下は、「どうしたい?」と聞かれても、「どう進めればいいんだろう」と考えているのかもしれません。
一方、「最近どう?」という問いでは、テーマが広がりすぎます。
もちろん、会社への不満や悩みを安心して話せる関係性はとても大切です。
ただ、感情を受け止めるだけで終わってしまうと、その経験を振り返り、学びにつなげるところまでは進みにくくなります。
そして、時間がなくなると、「じゃあ、こうしてみたら?」とアドバイスで終わってしまう。
これも、決して悪いことではありません。仕事を前に進めるためには、上司としてアドバイスが必要な場面もたくさんあるからです。
ここまで考えてみると、私は一つのことに気づきました。
「仕事を前に進める時間」と「人を成長させる時間」を、同じ対話の中で同じように進めようとしている。
つまり、対話の目的が曖昧なまま、コーチング的な問いを使おうとしている。
そこに、この3つの悩みの共通点があるのではないでしょうか。
2.「仕事を前に進める対話」と「人を成長させる対話」は目的が違う
私は、1on1には大きく二つの役割があると思っています。
一つは、仕事を前に進めるための対話。
もう一つは、経験を振り返り、成長につなげるための対話です。
この二つは似ているようで、実は回したいサイクルが違います。
仕事を前に進める対話では、特にPDCAサイクルが力を発揮します。
目標を確認し、実行し、結果を振り返り、改善につなげる。成果を出すためには欠かせないサイクルです。
例えば、営業担当の部下との1on1を想像してみてください。
商談が終わったあと、
「次はどこを改善しようか」
「準備でもっとできたことはあるかな」
「次回までに何をやってみよう」
そんな対話は、仕事を前に進めるための対話です。
一方で、人を成長させる対話では、回したいサイクルが変わります。
それが経験学習サイクルです。
経験学習サイクルとは、経験を振り返り、そこから気づきや学びを得て、次の行動につなげていく考え方です。
3.コーチングコミュニケーションは経験学習サイクルの中でこそ力を発揮する
経験学習サイクルでは、成果そのものよりも、「経験」に目を向けます。
例えば、同じ商談のあとでも、
「やってみてどうだった?」
「一番印象に残ったことは?」
「難しかったのはどんな場面だった?」
「逆に、うまくできたことは?」
そんな問いから対話が始まります。
ここで大切なのは、正解を探すことではありません。
その経験を通して、何を感じ、何を学び、どんな意味があったのか。
その人自身が経験を振り返り、意味づけをしていくことです。
私は、このように経験を振り返り、本人の気づきや学びにつなげる対話の中で、コーチングコミュニケーションは特に力を発揮すると感じています。
4.経験学習サイクルでは、成功も失敗も価値になる
私が経験学習サイクルで一番好きなところは、経験を「価値」に変えられることです。
経験を振り返り、
「この経験には、どんな価値があったんだろう」
と一緒に意味づけをする。
そして、その価値が見えてきたら、
「では、この経験を活かして次はどんなことができそう?」
と未来につなげていく。
私は、この流れが人の成長を支える大切なポイントだと思っています。
さらに、経験学習サイクルにはもう一つ好きなところがあります。
それは、失敗した経験にも価値を見出せることです。
PDCAでは、
「何が原因だったのか」
「次はどう改善するのか」
という対話に焦点が当たりやすくなります。
もちろん、それも必要です。
でも経験学習サイクルでは、
「今回の経験で気づいたことは?」
「この経験だからこそ学べたことは?」
「この経験には、どんな価値があったと思う?」
そんな問いが生まれます。
すると、失敗に見えた出来事も、次の挑戦を支える学びへと変わっていきます。
5.まずは5分から始める「経験を価値に変える対話」
コーチングコミュニケーションというと、「質問の技術」と思われることがあります。
もちろん、問いは大切です。
でも私は、それ以上に大切なのは、対話の設計だと思っています。
何について対話をするのか。どのサイクルを回したいのか。
そこを意識することが大切です。
私たちコーチは、業務上の利害関係がないため、セッションの多くを経験学習サイクルで進めることができます。
一方、管理職の皆さんは、仕事を前に進める責任も担っています。
だからこそ、1on1をすべて経験学習サイクルで進める必要はありません。
仕事を前に進めたいときはPDCA。
人を成長させたいときは経験学習サイクル。
この二つを目的に応じて使い分けることが大切なのです。
次回の1on1では、最初の5分だけでも構いません。
「何が起きた?」
「計画通り進んだ?」
と確認する前に、まずは次のように問いかけてみてください。
「やってみてどうだった?」
「今回の経験で気づいたことはある?」
「次に活かせそうなことはある?」
そんな問いから始めてみるのです。
その時間は、単に仕事の進捗を確認する時間ではなく、経験を価値に変える時間へと変わっていくはずです。
対話がうまくいかないと感じたときは、問いを変える前に、「今、自分はどんなテーマで対話し、どのサイクルを回そうとしているのだろう」と立ち止まってみてください。
その視点を持つだけで、1on1の景色はきっと変わり始めます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
日々、メンバーと事業の成長に邁進されている管理職の皆様を応援しております。
\ Rubatoの法人向け1on1キャリア支援 /
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
キャリアコーチングサービス「me:Rise」
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
- 体験セッション受付中!(60分1回 体験特別価格50%OFF)
- 少数精鋭の質高いプロコーチが伴走
- コーチングとティーチング(研修)の両輪で社員の自律的な成長をサポート
井本 仁美
㈱リクルートエージェント(現:㈱リクルート)にて法人営業、新サービス拡充のプロジェクトリーダー、育成に従事し、その後人事系フリーランスへ転身。法人・個人向けキャリアカウンセリング、コーチング業務、研修講師、採用業務、ベンチャー企業での企画業務等を経験。
キャリアコンサルタント×コーチングの知見を活かし、課題解決しながらポジティブアプローチで目標達成を伴走することや、クライアントが発する言葉を大切に扱いその方が持つ価値観や考えの言語化が得意。自己肯定感が上がり、その人らしさに気づくことで自己実現に向けて行動を起こせるセッションと定評あり。
・国際コーチング連盟認定コーチ(ACC)
・(一財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ
・国家資格キャリアコンサルタント
