「説明は分かりやすかったはずなのに、反応がいまいち…」
「相手がうなずいてはいるけど、次の行動につながらない…」
このような場面に直面したことは誰しもあるかと思います。いくら「伝え方」がうまくても「伝える内容」が相手の必要としていることとずれていては、残念ながら行動にはつながりません。ビジネスでのコミュニケーションは単なる「情報提供」ではなく、聞き手に「理解」、「態度」、「行動」の変容を促すことが目的ですので、相手の変容につながらないコミュニケーションは単なる時間の無駄になってしまいます。
では、どうすれば相手の変容を促すメッセージを届けられるのでしょうか?私は多くのビジネスパーソンが、「聞き手の理解不足」が原因でコミュニケーションがうまくいっていないと感じています。今回は、会議での報告・発表や意見を伝える時に使える「聞き手の5ステップ分析」をご紹介します。
5ステップで聞き手を深く理解する
私はコンサルタントとして多くのプロジェクトに関わってきましたが、クライアントへの打ち合わせや報告の前には、チームで意思決定者がどのような人でどんな職責を担っていて、どんなことに興味・関心があり、何に注力しているかということをとにかく議論していました。そういう意味ではコンサルタントのコミュニケーションスキルの一つの極意は、コミュニケーションの前に「聞き手を徹底的に理解する」ことにあると思います。
具体的には次の5つのステップを行いますので順を追ってみていきましょう。
1. 聞き手の属性の理解
これは特に社外に対するコミュニケーションで重要なポイントになります。相手の役職、年齢、性別、所属部門、社歴などの基本的な属性情報を押さえます。最近はオンラインでの打ち合わせが多くなり、名刺交換もなくなり、この属性情報を取ることが難しくなっています。こういった情報をとるためにもオンラインでの打ち合わせでは、うまく雑談を行って相手の情報を取ることが重要になっています。
例えば相手の担当領域を知るために、まず自身の担当を説明して、その上で「今は他に何をご担当されているのですか?」や「今のご担当の前は何を担当されていたのですか?」と言った質問をさりげなく雑談の中で入れ込むことが大事です。
できればこれをテクニック的に行うのではなく、相手への興味・関心から自然にできるようになるとベストです。相手への興味・関心から生まれる質問は、相手にその気持ちが伝わりますし、自然と答えたくなるものです。
2. 知識・経験・興味レベルの把握
次に、聞き手のテーマに関する知識・経験・興味レベルを想定します。この想定が曖昧なままコミュニケーションすると、相手は「知っていることを何度も繰り返されるなあ」とか「知らない言葉がたくさんあるなあ」という反応になり、話に対する興味を失う要因になります。ここで、相手の知識や経験レベルに合わせて専門用語の使用量や資料の構成を調整します。
私がよく遭遇するパターンは、他部署などに対する説明で、他部署が把握していない情報を前提として内容を説明しているパターンです。これは説明の前に「他部署が把握している情報って何だっけ?」と自問すれば避けられることです。しかし、自身がその説明資料の作成などに手一杯になっていると、相手について考える余裕がなくなり、自身の前提をベースにした説明になってしまうことがよくあります。
3. 悩み・課題の把握
「今、聞き手が何に困っているのか?」を考え抜いて、仮説を元に悩みや課題を設定します。それまでの相手とのやり取りをベースにして考えることが肝心です。この課題に直接応える内容を伝えることで、聞き手は「自分に必要な話だ」と感じ、真剣に聞いてくれます。
社内の身近な人とのコミュニケーションであれば、普段のやり取りの中で課題感を想像することは可能ですが、他部署や社外とのコミュニケーションの場合は聞き手のお困りごとを知るのは実は大変難しいことだと私は感じています。
例えば皆さんは1-2時間しかオンラインで話したことがない人相手に自身が何に困っているかを話したいと思うでしょうか。恐らくそうは思えないと思います。そういう意味で、できるだけ対面で話す場を作ったり、雑談する場面を作ったり、できれば一緒にランチをするなどのビジネス外でのコミュニケーションの場面を作ることが重要だと私は感じています。
さきほども書きましたが、それをできればテクニカルに行うのではなく、相手に対して興味・関心があって行えると良いと私は思っています。ただ、最初から仕事上の付き合いの相手に興味・関心を持つのは難しいものですので、まずは仕事外のコミュニケーションの場を作り、その話の中で相手に興味・関心を持つようにすればよいのではないかと思っています。
4. 目指す姿の設定
次にコミュニケーションを通して聞き手がどういう状態になりたいのかを想像します。しかし、多くの場合、聞き手側がこういう状態になりたいというのは曖昧なことが多いです。ですので、伝え手側が「聞き手がこういう状態になるとハッピーなのではないか」という想像をして「目指す姿」を設定することが実際にうまくいくケースが多いと私は感じています。
(厳密に言うと、仮にこちらで「目指す姿」を設定し、それをコミュニケーションの中で小出しにすることで、聞き手と自身の間で「目指す姿」をすり合わせ、共に作っていくというイメージになるかと思います)
伝え手がこの目指す姿を設定することで「伝える内容」がより具体化します。聞き手を「こういう状態にしたい」という設定はできるだけ具体的な方が伝える内容を考えやすくなります。
参考までに、下記に良い例と良くない例を挙げます。
✕ 新規開拓が得意になり、成果が安定する営業になる
↓
◯ 新規顧客に対して無理なく電話のアポができるノウハウを知っている状態になっている
✕ チームメンバーを育てられるリーダーになる
↓
◯ チームメンバーそれぞれの育成計画の策定方法を理解している状態になっている
✕ 残業を減らし、業務効率を高める
↓
◯ 業務効率を上げるための具体的な方法を知っており、それを通して残業を減らそうという意欲を持っている
上記の良くない例がいつもダメだという訳ではありません。長期的には必要な「目指す姿」だと思います。しかし、個別のコミュニケーションについては、できるだけ具体的に達成しやすい「目指す姿」を設定し、その「目指す姿」が長期的な「目指す姿」と整合するかを確認するようにすればよいと思います。目指す姿を具体的に設定すればするほど、伝える内容を考えやすくなりますし、相手は動きやすくなります。
5. 伝えるべきメッセージを考える
これまでの情報を踏まえて「伝える内容」を箇条書きしてみます。聞き手の悩みや課題に対して、この情報を提示すれば、「目指す姿」に近づくはず、そう思える内容を洗い出します。もし、ここで伝える内容が膨大になっているとしたら、恐らくそれは「目指す姿」の目指すレベルが高すぎるということだと思います。また、伝える内容が思い浮かばない場合は、「目指す姿」が曖昧な場合が多いです。
そして最後にその箇条書きした内容を一言で伝えるとしたら何か、キーとなるメッセージを考えます。このキーとなるメッセージをコミュニケーションの冒頭と最後に伝えることで相手の変容を促すコミュニケーションとなるはずです。
まとめ:準備段階で成果は決まる
会議での発表やプレゼンで結果を出す人は意識的、無意識的に上記の要素を押さえてコミュニケーションをしています。もし、コミュニケーションで伝わらないと感じる場面が多い人であれば、上記の「聞き手に合わせた伝える内容設計」に時間をかけてみてはいかがでしょうか。
前回お伝えした自分の特徴を生かした話し方は、それ単体で有効なのですが、話す内容に中身があってこそ、本当の効果を発揮します。ぜひ準備の第一歩として上記の5ステップにチャレンジしてもらえればと思います。
ルバートでは本ブログの内容を扱った研修として、公開講座で会議プレゼンテーション研修を実施しています。もしご興味があればご参加いただければと思います。
松上 純一郎
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。