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会議での対立をチャンスに変える~建設的な議論を導くファシリテーション術~

ルバート代表の松上です。前回は空雨傘のフレームワークを使って、円滑に会議をファシリテーションするノウハウについて共有しました。今回も引き続き会議ファシリテーションについて書いてみようと思います。今回は会議で意見が対立した時にどのように対処するかについて見ていきたいと思います。

本記事の執筆者
松上 純一郎マツガミ ジュンイチロウ
  • 株式会社Rubato代表取締役
  • 『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』
    『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』著者

 

意見の対立は悪いこと?

みなさんは会議で意見が対立することについてどう思われるでしょうか。できれば避けたいと思う方も多いと思います。私も会議で意見が対立する場面に遭遇すると、「ちゃんと結論が出るだろうか」とか「あとにしこりが残らないだろうか」と不安になってしまいます。

そんな私でも実は心に残っている言葉があります。それは私が今から20年前にイギリスの大学院に留学している時に受けた授業での教授の言葉です。その授業は国際的な紛争をテーマにしたものでした。その授業の冒頭で教授はこう言いました。「多くの人は紛争は避けるべきものと考えるが、紛争は対立から新たなものを生み出すという意味で実はポジティブなものでもある。異なるものから新たなものを生み出すプロセスに紛争は付きもの。なので、紛争そのものを避けることは実はよくないことだ。大事なのは紛争を建設的で暴力的なものにならないようにすることだ。」と。

私は会議の対立にも同じことが言えると思います。人がそれぞれ異なる意見を持つのは当たり前のことで、会議で意見の対立が起こるのもある意味当たり前のことです。そして、実はその対立から新たな発想が生まれることもよくあります。近年流行になっている「心理的安全性」も、その目的は「みんなで仲良くしよう」ではなく、「安心して異なる意見を出して建設的な議論ができる関係性を作ろう」というのが目的です。

そう考えると、会議での対立を避けるべきものと考えるのではなく、いかに対立を建設的なものにするかという考えがファシリテーションにおいて大事になってくると思います。

会議の冒頭のアナウンスが重要

それでは具体的にどのようにファシリテーションすればよいのでしょうか。対立のファシリテーションにおいて、まず会議の冒頭が肝になります。対立が起こりそうなテーマかどうかというのは会議が始まる前からわかっているはずなので、冒頭を工夫します。具体的には、「今日の会議は、それぞれの立場からひょっとすると意見が対立する場面があるかもしれませんが、異なる視点から学び合って、チームにとって最善の解を見つけましょう」というようなアナウンスをするのです。

このアナウンスにはいくつかのポイントがあります。まず、「立場が異なるから意見が対立する可能性がある」ということを明言することで「立場」が対立の原因であることを強調しているのです。これにより意見の食い違いが「人」によるものではなく、「立場」によることを強調でき、議論が感情的になるのを防げます。また、「チームにとって最善の解を見つける」ことを強調することで、議論の勝ち負けが目的ではなく、「チームにとっての解決策」が目的であることを意識づけることができます。

会議の冒頭で何をアナウンスするかは意見の対立のマネジメントだけでなく、会議全体のマネジメントで大変重要ですので、会議の冒頭に共有すべき内容について書いたブログ「会議は最初の5分で決まる~3つのポイントで生産性を上げる~」やブログ「無駄な会議を減らす!成果を生むファシリテーション術~目的と論点の設計で会議の質を劇的に向上させる~」も参考にしていただければと思います。

意見対立への対応は状況次第

冒頭にアナウンスをしたのにもかかわらず意見の対立で議論が平行線をたどる場合には、その状況に応じて対応の仕方を決めていきます。もし意見の対立が議論を勝ち負けで判断するような個人の性格に起因する場合や、参加者間の個人的な関係性に起因する場合は、まず高ぶっている感情をなだめるところから開始します。具体的にはそれぞれの意見の背景や理由を聞くというアプローチを行います。人は自身の意見の背景や理由を聞いてもらうだけで、気持ちが収まる傾向があるからです。(背景や理由を聞いている間は対立している相手からの発言は一旦ストップしてもらうようにお願いします)

背景や理由を聞いても議論の平行線状態が収まらない場合は、両者に考えてもらうことを提案します。「双方の意見はよくわかりました。どうしましょう?何らかの結論を出す必要はあると思うのですが……」というように意見をまとめるのはファシリテーターや他者の責任ではなく、意見が対立している当事者に責任があることを伝えます。ただ、「自分たちで結論を出してください」と相手に丸投げするのではなく、「どうしましょうか?」と問いかける形にするのがポイントです。

意見の対立が個人の性格や関係性によるものではなく、立場や考え方の違いに起因する場合は議論を整理するアプローチが有効です。具体的にはホワイトボードに共通点と違いを書き出して整理してみます。議論の整理にもなりますし、何より議論している当事者が状況を客観的に見ることができるので冷静に考えられる効果があります。また、そもそもの目的に立ち戻って両者に問いかけてみることも有効です。「目的は〇〇ですが、それを踏まえるといかがですか?」というように目的を再認識してもらうことで議論が進むこともよくあります。


意見の対立が収まらない場合の対処

このような状況に合わせたアプロ―チを行い、それでも平行線が続く場合はどうすればよいのでしょうか。私がお勧めするのは一旦会議を打ち切ることです。会議での解決に時間がかかる場合は同席しているメンバーの時間を使うことになりますし、頭がどんどん働かなくなっていきますので、長時間をかけることは得策とはいえません。全てを会議で解決しなければならないという固定観念を外すことも場合によっては大事になります。

会議を一旦打ち切った後に着地点を見つけるために行うことは二つのパターンがあります。一つは別途それぞれの話を聞いて調整を図るという方法です。当事者同士が話し合うとどうしてもヒートアップしてしまう場合に有効な方法です。もう一つはそれぞれの意見のメリット、デメリット、そして共通点などを中立的な立場で整理して、再度会議を行うという方法です。こちらは会議内での整理が難しい場合に有効な方法です。

私がコンサルタントとして意見の対立に対処する時には上記の二つの方法を使い分けていました。時には組み合わせることも有効で、まず意見のメリットデメリットを整理した上で、個別に話を聞いて着地点を探るということもよくやりました。

もし自分がどちらかの意見に寄った立場の場合(自分自身が対立の一部の場合)は中立的な解決が非常に難しいので、より中立的な立場の方や第三者の協力を得ることも検討する必要があると思います。

おわりに

会議ファシリテーションでの「対立」の対処の仕方、いかがだったでしょうか。もちろん全ての対立がここで書いたことで解決するわけではないと思いますが、いくつかのアプローチを持っておくことで、対処の糸口が見える可能性が高まると思います。また、対立の場面で大事なのは冷静にその場をマネージできる人間の存在です。いくつかのアプローチを持っておくことで心の余裕が持て、より冷静に対応できるのではないでしょうか。

Rubatoでは今回の内容をより実践的にお伝えする公開講座「会議ファシリテーション」を定期的に開催しています。また、個人向けの講座として前編後編の2回に分けて開催しています。もしご興味がある方がいらしたらぜひご参加ください。

 

【本記事の執筆者】
松上 純一郎

同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループで、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、国内企業の海外進出戦略の策定に従事。その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて企業の新興国進出サポート(バングラデシュやアフリカ・ザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や栄養改善プロジェクトに携わる。
現在は株式会社ルバート代表取締役を務める。組織の変革のためにはスキルとwillの両面からサポートすることが必要という考えから、ビジネススキル研修、そしてコーチングのサービスを提供している。